明朝万暦37年、江南の蠹県。一見繁栄しているこの県には、暗い影が潜んでいた。物語は、郷紳の冷捕頭が麦畑で無残な姿で発見されたことから始まる。遺体の傍らには不可解な『論語』の字謎が残されていた。冷捕頭の義理の息子で、衙門で働く聡明な少年・陸直(ルー・ジー))は、この惨劇を目の当たりにし、真犯人を突き止めることを決意する。
陸直(ルー・ジー)と共に事件を追うのは、片腕を失いながらも、類まれな才能と強い意志で衙門を支える宋典史。彼は鋭い洞察力で陸直(ルー・ジー)を導き、共に捜査を進めていく。衙門には、経験豊富な一方、腹の底が見えない易班頭もおり、捜査は複雑な様相を呈していく。
蠹県には多くの有力な郷紳がおり、陸家もその一つ。陸直(ルー・ジー)は陸家と繋がりがあるものの、複雑な立場に置かれ、一族に溶け込もうとしながらも、排除されることも少なくない。郷紳たちは土地や商業権益をめぐり、互いに牽制し合っていた。
また、県には酒場の主人、遊女、漁師など、様々な境遇の人々が暮らしている。彼らは貧しい暮らしを送っているが、事件の捜査において貴重な手がかりを提供する存在となる。
冷捕頭の死を皮切りに、同様の手口で郷紳たちが次々と殺害されていく。毎回、『論語』の字謎が残されることから、犯人は何らかのメッセージを送っている、あるいは被害者を裁いているようにも見える。陸直(ルー・ジー)と宋典史は、遺体や現場、被害者の背景を丹念に調べ、被害者たちの間に共通点があることを突き止める。彼らは皆、過去のある秘密に関わっていた。捜査を進める中で、証拠の隠滅や偽の手がかりなど、様々な妨害工作にも直面する。
捜査が深まるにつれ、陸直(ルー・ジー)は幼い頃の記憶を呼び覚まし、陸家で起きた過去の事件が徐々に明らかになっていく。それは権力、財産、そして人命が絡む、隠蔽された事件だった。犯人は過去の冤罪を晴らすために復讐している可能性が浮上する。陸家の関係者への聞き込みや古い記録の調査を通して、陸直(ルー・ジー)と宋典史は真相へと近づいていく。
ついに、全ての真相が明らかになる。犯人は、長年隠蔽されてきた陸家の過去の冤罪に対する復讐を企てていた。かつて陸家の人間が犯した許されざる罪を、『論語』の言葉を模倣した字謎で裁いていたのだ。この事実は、封建社会の闇、人間の複雑さ、そして不正に立ち向かう弱き者たちの苦悩と葛藤を浮き彫りにする、悲しい物語であった。
第1話あらすじとネタバレ
曲三更(キョク・サンコウ)と士聡は、田んぼで死体が発見されたという通報を受け現場へ急行する。そこで二人が目にしたのは、なんと師匠である冷捕頭の遺体だった。しかも、無残にも案山子のように仕立て上げられていた。遺体に群がるハエによって異変に気付いた人々が、突き刺さっていた鉄棒を取り除くと、そこには「吾道一以貫之」の文字が刻まれていた。冷捕頭の首には明らかな絞殺痕があり、殺害後にこの状態にされたことが明白だった。曲三更(キョク・サンコウ)は鉄棒の文字が経典からの引用であることから、犯人は讀書人ではないかと推測する。県令は城内の四、五百人を全て捕らえて尋問することを提案するが、部下たちは非現実的だと仮対し、別の捜査方法を探る必要性を訴える。
現場を離れる際、曲三更(キョク・サンコウ)は師匠の遺体を見つめ、過去の出来事を思い返す。かつて自分がならず者を逃がしたことで師匠に叱責されたこと、そしてその後、こっそりと自分の怪我を気遣ってくれたこと。師匠はならず者の治療費を払っただけでなく、正義と責任について説いてくれた。その時、師匠は自分の純真さが大きな騒動を引き起こすことを心配していたのだと、曲三更(キョク・サンコウ)は悟る。そして今、この事件には他に何者かが関わっているのではないかと疑念を抱く。
衙門に戻った曲三更(キョク・サンコウ)は、易捕頭に現場の様子を説明し、師匠の仇を討ちたいという強い決意を伝える。彼は易捕頭に、夜間の目撃者を探すため、経験豊富な役人を斉家堡へ派遣するよう要請する。しかし、易捕頭は非協力的で、二人を追い払おうとする態度を見せる。このことから、曲三更(キョク・サンコウ)は易捕頭が事件に関与しているのではないかと疑い始める。二人の捕房の間には、対立の空気が漂い始める。
その後、曲三更(キョク・サンコウ)は師匠の家を訪ね、父の死を悼み、目を腫らした冷桂児(レン・グイアル)に会う。彼女は父の死の真相を知りたがり、曲三更(キョク・サンコウ)は惨状を伏せながら詳細を伝える。冷桂児(レン・グイアル)は曲三更(キョク・サンコウ)に必ず仇を討つように頼む。
事件の手がかりを得るため、曲三更(キョク・サンコウ)と士聡は幼い頃に学んだ学堂へ行き、夫子に「吾道一以貫之」の意味を尋ねる。夫子は孔子の教えだと説明し、忠誠と寛容の大切さを説く。しかし、鳳可追(ホウ·カツイ)は異なる解釈を提示し、この言葉は規律を守らず聖人の教えを信じない者への挑発だと主張する。夫子はこれに怒り、鳳可追(ホウ·カツイ)を追い出す。
帰路の途中、曲三更(キョク・サンコウ)は鳳可追(ホウ·カツイ)にさらに詳しく考えを聞く。鳳可追(ホウ·カツイ)は食事をおごらせることを条件に、犯人は冷捕頭と深い恨みを持つ者であり、世の中を恨んでいる人間だろうと分析する。犯人は正規の手段では復讐できないと考え、自ら手を下したのだと推測する。夜、宋典使は案宗室で寝ている曲三更(キョク・サンコウ)を見つけ、翌朝、彼が学んだ技について探りを入れる。そして、記録に残っていない事件もあることを示唆し、記録されていない真実に目を向けるよう忠告する。
師匠の腰牌がなかったことから、最後は公務でなかったと判断した曲三更(キョク・サンコウ)と士聡は翠華楼へ向かう。士聡の人脈を使って情報を得ようとしたのだ。二人は翠華楼の裏口から入り、番頭に丁重にもてなされる。林媽媽、つまり翠華楼の女将はすぐに曲三更(キョク・サンコウ)の嘘を見抜くが、彼は師匠の死の真相を伝える。林媽媽は悲しみ、冷無疾(レン・ウージー)が事件前夜に翠華楼を訪れていたことを明かす。彼女は、冷無疾(レン・ウージー)が新しい県令のことを猫官、つまり表面上は公平に見せかけているだけで、実際は何もしていない役人だと評していたことを覚えている。最後に、林媽媽は曲三更(キョク・サンコウ)にいくらかのお金を渡し、師匠の妻に渡すよう頼む。
実は、冷無疾(レン・ウージー)は翠華楼を出た後、壁の穴の近くで殺害されたのだった。彼は穴から銀子を取ろうとしていたところを犯人に襲われ絞殺され、遺体は馬車で城外へ運ばれた。曲三更(キョク・サンコウ)と士聡は考えを巡らせ、事件の大まかな流れを掴み始める。しかし、既に修復された壁の前を通り過ぎた二人は、そこが事件現場だとは気づかなかった。
第2話あらすじとネタバレ
京城には「二鼠三狼」と呼ばれる五大暴力団が存在し、彼らは自らを「五侯府」と称し、官府や権力者と繋がり、冷無疾(レン・ウージー)の後ろ盾を得て情報網を張り巡らせ、様々な商売を営んでいた。ある日、屈強な男が酒壺を抱えて歩いていたところ、劉老二とぶつかり、酒壺が割れてしまう。男の仲間は通行人を装い、劉老二に弁償を要求する。そこに「銭莫」が現れ、劉老二の代わりに弁償を申し出る。劉老二は感謝し、字が読めないにも関わらず借用書にサインしてしまう。程なくして曲三更(キョク・サンコウ)が現れ、周囲の人々は逃げ出す。「銭莫」は逃げようとするが、借用書の件で曲三更(キョク・サンコウ)に頭を下げざるを得なくなる。曲三更(キョク・サンコウ)は、劉老二が孫娘と二人暮らしで、わずかな田畑と草葺き小屋しか持たないこと、孫娘は10歳であることを知る。そして、劉老二に、あの男たちに目をつけられていること、利子を積み重ねていくと、家も孫娘も奪われるだろうと警告する。冷無疾(レン・ウージー)は幼子の売買を禁じていた。
曲三更(キョク・サンコウ)の真の目的は、暴力団の親玉を捕らえることだったが、何度訪ねても会えない。相手は、曲三更(キョク・サンコウ)が来ると親玉は家にいないと言う。その後、曲三更(キョク・サンコウ)は娼婦を捕まえ、彼女の息子が暴力団の親玉であることを知る。曲三更(キョク・サンコウ)の母は、冷無疾(レン・ウージー)の庇護を失った今、役人を辞めるよう勧める。曲三更(キョク・サンコウ)は師匠との会話を思い出す。優秀な捕吏になりたいと語った自分に、師匠は、この世の中はお前の理想には耐えられないかもしれないと諭していた。そして、捕吏だった父が退役後、夜警になり、火事で亡くなったことを思い出す。
宋典使は曲三更(キョク・サンコウ)に抜けた歯を渡し、翠華楼に行ったことがあるか、林四娘(リン・スーニャン)が冷無疾(レン・ウージー)の愛妾であることを知っているかと尋ねるが、曲三更(キョク・サンコウ)は知らないと答える。易捕頭は部下を遠ざけ、士聪は易捕頭が私怨で曲三更(キョク・サンコウ)に仕返しをするのではないかと心配し、曲三更(キョク・サンコウ)と一緒に捕吏部屋に戻る。曲三更(キョク・サンコウ)は抜けた歯を易捕頭に渡し、縁あって手に入れた贈り物だと言う。易捕頭は宋典使の立場を考慮し、曲三更(キョク・サンコウ)に三日以内に犯人を捕らえるよう命じ、できなければ免職にすると言う。曲三更(キョク・サンコウ)はすぐに崔家荘の使用人が犯人だと指摘する。盗掘された玉瓶が紛失したため、使用人は動揺し、すぐに逮捕される。易捕頭は曲三更(キョク・サンコウ)が事件を解決できないのを見て、士聪を免職にする。
士聪は屠殺業を避けるために捕吏になったのだった。二人はある日、酔った勢いで「銭莫」に会う。曲三更(キョク・サンコウ)は「銭莫」が自分を尾行しているのではないかと疑い、暴行を加えて牢に入れる。朦朧とする意識の中で、曲三更(キョク・サンコウ)は師匠の姿を見る。師匠は、正義の道は曲がりくねっていると告げる。曲三更(キョク・サンコウ)は泣きながら誰が師匠を殺したのかと尋ねると、師匠は自分は良い人間だったと答える。帰宅途中、曲三更(キョク・サンコウ)は夜警が蝋燭を灯していないことに気づき、貧しさからだと知る。曲三更(キョク・サンコウ)は夜警に金を渡し、多くの人が生活のためにそうしていると知る。
冷桂児(レン・グイアル)は酒場で一人酒を飲む曲三更(キョク・サンコウ)を見かけ、捕吏がこんな時間に酒を飲むべきではないと注意する。曲三更(キョク・サンコウ)は師匠の家まで追いかけ、冷桂児(レン・グイアル)に水を浴びせられ、正気に戻る。冷桂児(レン・グイアル)は父・冷無疾(レン・ウージー)の服を著せ、地下室へ連れて行く。そこには一万両以上の銀子と、多くの未整理の書類が保管されていた。書類には二十年前の陸家の火事の様子、四方が同時に燃え上がったこと、そして程逸緻が処方した薬が記録されていた。
曲三更(キョク・サンコウ)は、これらの銀子は贓物ではなく証拠だと考える。九月初七日は曲三更の父の命日であり、母に火事の場所を尋ねる。母は鉄獅子大街の陸家だと答え、師匠が証言を保管していたことを知り、何かを察する。曲三更は二十年前の目撃者を調べ始める。しかし、皆の証言は火勢が異常に激しかったというもので、明らかに偽証だった。陸家の火事は謎に包まれていた。
曲三更は程逸緻を捕まえ、二十年前の薬の処方箋を見せる。程逸緻は軽い病気の薬だったとぼんやりと思い出すが、その仮応から何かを隠しているのは明らかだった。夜、鳳可追(ホウ·カツイ)が曲三更を訪ねてきて、塾の先生である自分の叔父が変死したことを伝える。先生は手に普段使わない銅の戒尺を握りしめ、そこには「童子六七人」と刻まれていた。曲三更は先生の遺体の傍らで毛の生えた鶏を見つけ、更なる秘密を予感する。
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