『魔道祖師(まどうそし)』 第83話:「忠誠の心 5」

刹那、藍思追(ラン・スーチュイ)は吐きそうになったものを慌てて飲み込んだ。

剣の柄に手をかけた藍思追(ラン・スーチュイ)は、凝視して低い声で「鬼……」と叫んだ。

船室にいた金凌(ジン・リン)は、その声を聞きつけ、剣を手に飛び出してきて「鬼がいるのか?どこだ、俺が退治してやる!」と言った。

藍思追(ラン・スーチュイ)は「鬼ではない、鬼将軍だ!」と答えた。

少年たちは皆、甲板の縁に集まり、藍思追(ラン・スーチュイ)が指差す方向を見た。案の定、船べり下部に掴まり、下から覗き込んでいた黒い影は、まさに鬼将軍温寧(ウェン・ニン)だった。

乱葬崗を下りた後、温寧(ウェン・ニン)は姿を消していた。まさかこんな時に、音もなく漁船に掴まっているとは、それもどれくらい前から掴まっていたのか見当もつかない。

少年たちは驚き、しばらくの間、言葉が出なかった。大きな目で見つめ合い、しばらくしてから、一人が「誰かを呼んだ方がいいんじゃないか?」と言った。

皆が賛同したが、誰も動くことはなかった。

声を出すと温寧(ウェン・ニン)が暴れ出すかもしれないという心配もあったが、それ以上に、自分たちが見ている鬼将軍は、噂に聞く鬼将軍とは全く違うと感じていたからだ。少年たちは怖いもの知らずで、温寧(ウェン・ニン)の姿こそ異形だが、脅威は感じなかった。見つかった後もじっと動かず、まるでとぼけたウミガメのようだった。そんな様子は、どこか面白くさえあった。見つめ合うその時間は、3割の危険と7割のスリル、そして10割の面白さに満ちていた。

また別の少年が「どうりでこの船、進むのが遅いと思った。人が一人余計にくっついてりゃ、そりゃ重いわな」と呟いた。

「あいつ……何でそこに掴まってるんだ?」

「俺たちを殺すつもりじゃないだろ。殺すならとっくに乱葬崗で殺してるはずだ」

藍思追(ラン・スーチュイ)は「もしかして、俺たちを守ろうとしているのでは?」と推測した。

彼の声が下に届くと、温寧(ウェン・ニン)は視線を藍思追(ラン・スーチュイ)の顔に移し、この上品な少年をじっと見つめた。すると、硬く青白い顔が、かすかに動いた。

藍思追(ラン・スーチュイ)の隣の少年が「動いたぞ!」と叫んだ。

温寧(ウェン・ニン)は甲板から垂らされた太い麻縄を掴み、ゆっくりと登り始めた。

数人の少年たちは一斉に散り散りになり、甲板の上を慌てて走り回り、ドンドンと音を立てながら「上がってきた!鬼将軍が上がってきたぞ!」と叫んだ。

「どうしよう!何をするつもりだ?!」

「人を呼べ!早く!」

「お前が人を呼びに行け!俺、俺は縄を切る!」

少年の一人が剣を抜いて麻縄を切ろうとしたが、温寧(ウェン・ニン)はすでに登り切り、ずぶ濡れのまま船べりから甲板にどっしりと著地した。漁船全体が、彼の著地の衝撃で揺れたようだった。

少年たちは皆、剣を抜き、甲板の仮対側に集まった。温寧(ウェン・ニン)は藍思追(ラン・スーチュイ)の顔を見つめ、彼の方へ歩いてきた。少年たちは一斉に十数本の剣先を温寧(ウェン・ニン)に向け、心臓をドキドキさせながら、警戒を強めた。

藍思追(ラン・スーチュイ)は温寧(ウェン・ニン)が自分に向かってきていることに気づき、心を落ち著かせた。温寧(ウェン・ニン)は彼に「お前、お前の名前は?」と尋ねた。

藍思追(ラン・スーチュイ)は少し驚き、背筋を伸ばして「姑蘇藍氏(こそランし)の藍願と申します」と答えた。

温寧(ウェン・ニン)は「藍願?」と聞き返した。

藍思追(ラン・スーチュイ)は頷いた。温寧は「お前……お前はこの名前を誰がつけたか知っているか?」と尋ねた。

死人には本来表情がないはずなのに、藍思追(ラン・スーチュイ)には温寧の目が輝いているように見えた。

そして、今の温寧はひどく興奮しているように感じられた。言葉に詰まるほど興奮していて、その興奮は藍思追(ラン・スーチュイ)にも伝染するようだった。まるで、今にも何か秘密が明かされるような気がした。

藍思追(ラン・スーチュイ)は「名前はもちろん両親がつけてくれたものです」と答えた。

温寧は「では、お前の両親はご健在か?」と尋ねた。

藍思追(ラン・スーチュイ)は「両親は私が幼い頃に亡くなりました」と答えた。

隣の少年が藍思追(ラン・スーチュイ)の袖を引っ張り、低い声で「思追、あまり色々話すな。何かあるかもしれないぞ」と言った。

温寧は少し間を置いてから「思追?思追はお前の字か?」と尋ねた。

藍思追(ラン・スーチュイ)は「そうです」と答えた。

温寧は「誰がつけてくれたのだ?」と尋ねた。

藍思追(ラン・スーチュイ)は「含光君です」と答えた。

83、丹心第十九 5

温寧は頭を下げ、「思追」という言葉を二回呟いた。藍思追(ラン・スーチュイ)は「将……」と言いかけたが、将軍と呼ぶのは少し違和感があり、「温先生、私の名前に何か?」と改めた。

「ああ」温寧は顔を上げ、藍思追(ラン・スーチュイ)の顔をじっと見つめ、質問とは関係のないことを言った。「お前は、よく価ている。私の従兄にそっくりだ」

まるで下級の修士や外姓の門生が親戚を装うような言葉に、少年たちはますます訳が分からなくなった。藍思追(ラン・スーチュイ)もどう答えていいか分からず、「ほ、本当ですか?」と言った。

温寧は「本当だ!」と力強く言った。

彼は口角を上げようとしていた。まるで笑おうとしているようだった。「鬼将軍」のそんな様子を見て、なぜか藍思追(ラン・スーチュイ)の胸に、強い酸味を帯びた親近感が湧き上がってきた。

まさに親近感。どこかでこの光景を見たことがあるような気がした。そして、ある呼び名が、まるで何かの壁を破って飛び出そうとしていた。その呼び名を口にした瞬間、他の多くの記憶も溢れ出し、全てが明らかになるような気がした。しかしその時、藍思追(ラン・スーチュイ)は隣の金凌(ジン・リン)に気づいた。

金凌(ジン・リン)の顔色は悪く、剣を握る手に力が入ったり抜けたりの繰り返しで、手の甲の血管が浮き出ては消えていた。

藍思追(ラン・スーチュイ)は思い出した。目の前にいる一見無害そうな鬼将軍温寧は、金凌(ジン・リン)の父の仇だったのだ。

藍思追(ラン・スーチュイ)の視線に気づき、温寧はゆっくりと金凌(ジン・リン)の方を向き、「金如蘭公子か?」と言った。

金凌(ジン・リン)は冷淡に「誰だそれは」と言った。

少し沈黙した後、温寧は「金凌(ジン・リン)小公子」と言い直した。

金凌(ジン・リン)は温寧を睨みつけ、他の少年たちは金凌(ジン・リン)が何かしないかと緊張して彼を見守っていた。藍思追(ラン・スーチュイ)は「金公子……」と言った。

金凌(ジン・リン)は「邪魔するな、お前には関係ない」と言った。

しかし藍思追(ラン・スーチュイ)は、これは絶対に自分にも関係のあることだと感じ、金凌(ジン・リン)の前に出て「金凌(ジン・リン)、まずは剣を……」と言った。

金凌は元々気が立っており、視界を遮られたことで、思わず「邪魔するな!」と叫んだ。

彼は藍思追(ラン・スーチュイ)を突き飛ばした。船酔いで足元がふらついていた藍思追(ラン・スーチュイ)は、その衝撃で船べりにぶつかり、闇い夜江に落ちそうになった。幸い温寧が引き上げてくれたため、事なきを得た。少年たちは慌てて藍思追(ラン・スーチュイ)を支え、「思追兄!」と声をかけた。

「藍公子、大丈夫か?どうしてそんなに弱いんだ?」

温寧は金凌に言った。「金公子、私に向かってくるなら、温寧は決して抵抗しません。しかし、あ……藍願公子には……」

少年の一人が「金凌、お前はどうしてそんなことをするんだ!」と非難した。

別の少年も「思追兄はお前のためにしたんだぞ。感謝しないならまだしも、どうして突き飛ばすんだ?」と言った。

金凌は自分がやりすぎたと思い、驚いていた。しかし、周りの少年たちが藍思追(ラン・スーチュイ)を助け、自分を非難する光景は、過去の様々な出来事と重なって見えた。金麟台で過ごしたこれまでの日々、彼はいつもこのような居心地の悪い思いをしていた。

両親がおらず、雲夢江氏で過ごした時間の方が、蘭陵金氏で過ごした時間よりも長かった。誰も叱ってくれず、彼はわがままになり、皆から甘やかされて育った、付き合いにくい人間だと言われていた。身分は高貴なのに、幼い頃は一緒に遊んでくれる世家の子供もおらず、大きくなってからは彼に従う世家の若者もいなかった。金麟台では、誰も彼の将来を信じていなかった。

金凌の目はどんどん赤くなり、大声で言った。「そうだ!全部俺が悪い!俺はそんなにダメな人間なんだ!どうだ?!お前たちに関係ない!俺のことをとやかく言うな!」

突然、青い光が夜空を切り裂き、漁船に向かって飛んできた。

二つの影が甲板に降り立ち、青い光は鞘に収まった。

二人の姿を見た藍思追(ラン・スーチュイ)は安堵し、「含光君!魏先輩!」と喜びの声を上げた。

右側の血まみれの男は「ははは」と笑った。ちょうどその時、波が来て船が揺れ、男はよろめいたが、左側の男が自然に支え、男は体勢を立て直した。

魏無羨(ウェイ・ウーシエン)はまだしも、含光君があのような身なりをしているのを見るのは皆初めてだった。二人の白い衣服は濃い赤に染まり、全身から血の匂いが漂っていた。藍忘機(ラン・ワンジー)の方がまだましだったが、それでも全身で唯一綺麗なものは、特別な意味を持つ抹額だけだった。

しかし、魏無羨(ウェイ・ウーシエン)が自分の袖を裂いて藍忘機(ラン・ワンジー)の小さな傷口に巻いてくれた包帯は、しっかりと結ばれたまま、彼の左手に巻かれていた。