『皇后劉黑胖』 第44話:「噂話に翻弄される人生」

凌小将軍は、妻である雲岩公主が事あるごとに宮殿に戻って緑豆の花を見に行くことに堪えかね、黄驃馬に跨り宮殿へ乗り込み、公主を抱え上げて馬に乗せると、そのまま公主府へ連れ帰ったという。驸馬は怒り心頭に発するかに思われたが、寝室で一昼夜を過ごした後、ついに頭を下げて服従したそうだ。

攏月王爷(ろうげつおう)に求愛していた西粤の女官は、幾度も面会を求めるも門前払いを受け、ついに諦めた。三人の恰幅の良い黒髪の美女を連れ、荷物をまとめて西粤へ帰っていったという。

閭王爷こと段雲重(うんちょう)は、二年前に花街で特別な女性と出会い、身請けして以来、彼女を大切に寵愛し、一途に思い続けているという。

吏部尚書の柴鉄舟(さいてっしゅう)大人と、新しく京兆尹に赴任した魚長崖(ぎょ・ちょうがい)大人は男色家だという噂がある。しかし一方で、この二人が連れ立って銀粉街の花街柳巷をうろついているのをよく見かけるという話もある。

宮中の亭羅殿に住まう才女、劉白玉(りゅう・はくぎょく)は、冷酷な皇后によって殺されたという。現在市に出ている『漪瀾詩集』は、皇后が真実を隠蔽するために、誰かに代作させたものだという噂だ。

新しく出版された『囚心孽縁』の続編、『虐心孽缘』は偽物で、本当の『囚心孽縁』の作者は既に筆を折っているという。張さんの家の鶏は、李さんの家の犬に噛み殺されたという。…などなど。

もしこんな噂話がなければ、人生はどれほど味気ないものになるだろう。金鳳(きんぽう)はそう思った。

金鳳(きんぽう)は『漪瀾詩集』を懐に抱え、七八人の宮女を連れ、大勢で亭羅殿へ向かった。何人か多く連れて行くのは、白玉美人が恰幅の良い皇后の手にかかって死んだわけではないことを証明するためだ。万一亭羅殿で劉白玉(りゅう・はくぎょく)がうっかり手を火傷でもしたら、皇后が熱湯の入ったやかんを手に持ち、にやりと笑って白玉美人に浴びせかけたなどという噂が広まるといけない。

実のところ、劉白玉(りゅう・はくぎょく)は可哀想だった。三年前に皇帝が側室を迎える計画が頓挫して以来、朝廷の役人たちは誰も側室の話に触れようとはしなくなり、皇帝自身も亭羅殿へ足を運ぶことはほとんどなくなった。後宮の人々は皆驚き、才色兼備の白玉美人が寵愛を失う日が来るとは思ってもみなかった。

美人であっても、噂話の前では儚い存在でしかない。次第に、劉白玉(りゅう・はくぎょく)の話題を出す人は少なくなっていった。彼女は孤独に、謎めいた存在として亭羅殿に暮らし、外界との交流を絶ち、外界からも訪れる人はほとんどいなかった。時折金鳳(きんぽう)が贈り物を持って行くくらいで、互いに言葉を交わすことも少なかった。

今年の初めに劉白玉(りゅう・はくぎょく)が新たに書き上げた『漪瀾詩集』が出版されていなければ、この世の誰もが彼女のことを完全に忘れてしまったかもしれない。

劉白玉(りゅう・はくぎょく)は『漪澜詩集』の扉に題字を書き、優雅な仕草で本を持ち上げ、そっと墨を乾かした。金鳳(きんぽう)は頬杖をついて彼女の向かいに座り、その光景を美しいと感じていた。付き添いの宮女が近づき、「お持ちした品々は全てお納めしました」と報告した。

金鳳(きんぽう)は頷き、『漪瀾詩集』を受け取ると、立ち去ろうとした。劉白玉(りゅう・はくぎょく)が彼女の背後で「お待ちください」と声をかけた。金鳳(きんぽう)は足を止めた。「あなたは本当に…毎回こんなにたくさんのものを持ってこなくてもいいのよ」

金鳳(きんぽう)は振り返り、「私が持ってこなければ、いつかあなたに何かが足りなくなっても、あなたは私に頼みに来ないでしょう」と言った。「『漪瀾詩集』が出版できたのも、あなたのおかげです」

「あなたは私のことを好きではないかもしれないけれど、私はあなたの詩が好きなのよ」劉白玉(りゅう・はくぎょく)は何も言わず、しばらくして「もしあなたが罪悪感から私のためにこんなことをしているのなら、やめてください」と言った。「…」金鳳(きんぽう)は苦笑しながら、「誰があなたに罪悪感を感じていると言ったの?」

劉白玉(りゅう・はくぎょく)は黙り込んだ。金鳳(きんぽう)は彼女の表情に微かな恨みと哀れみを見て、思わず「この間母上が宮中に来て、またあなたのことを話していたわ。宮廷を出て、いい人を見つけて嫁ぎなさいって」と勧めた。

劉白玉(りゅう・はくぎょく)は視線を落とし、「私はもう二十一歳です。いい人なんて見つかるはずがありません」金鳳(きんぽう)は何も言えなかった。劉白玉(りゅう・はくぎょく)は彼女を一瞥し、「分かっています。これは全て私が招いたことです」金鳳(きんぽう)は再び何も言えなかった。

時々、劉白玉(りゅう・はくぎょく)の頭の中を覗いてみたいと思う。一体何が詰まっているのだろう。しかし、こんなにも無償の愛を捧げられるのは、本当に羨ましい。

「いつか彼が成し遂げたい大業を成し遂げる日が来ると信じています。その時、彼はあらゆる障害を乗り越え、私の元に戻ってくるでしょう」劉白玉(りゅう・はくぎょく)は金鳳(きんぽう)の顔をじっと見つめ、「お姉様は悪い人ではありません。でも認めなければなりません。彼が好きなのは、ずっと私です。あなたではありません」

「そんなに彼があなたを好きだと確信しているの?」「あなたが彼に、私を好きではないと、直接私に言わせるまでは」金鳳は息が詰まり、しばらく何も言えなかった。

「私はそんな意地悪をするつもりはないわ。あなたが待ちたいなら、待てばいい」ここで劉白玉(りゅう・はくぎょく)とくだらない話を続けるなんて、本当に時間の無駄だった。

恋をしている女性の目には、この世には彼と自分しか存在せず、他の全ての人や出来事は、自分の恋を成就させるための脇役に過ぎないのだろうか?

もしある日、自分も誰かを好きになり、こんな風になったら、本当に恐ろしい。

亭羅殿から戻ると、見慣れた青い錦の袍を著た人影が香羅殿から出てきて、まるで風火輪を踏むかのように急ぎ足で別の方向へ歩いて行くのが見えた。そのぎこちない動作は、彼の心の不快感を露わにしていた。

金鳳は驚き、しばらくして、そばにいた宮女に「あれは…雲重(うんちょう)ではないか?」と尋ねた。「はい、閭王爷でございます」と宮女は答えた。

「あら、どうしてこの時間に? この時間は私が香羅殿にいないって、彼も知ってるはずなのに」 段雲重(うんちょう)の後ろ姿を見つめながら、皇后はどこか違和感を覚えた。「もしかして、私に会えなくて気を悪くした? それとも、殿の誰かが彼を怒らせたとか?」

少し考え、侍女に命じた。「早く、彼を追いかけて連れ戻しなさい」 侍女は言われた通り、裾を上げて追いかけて行った。

金鳳は特に気に留めず、自ら門をくぐった。広間に入ると、風月(ふうげつ)が一人、ぼうっと突っ立っているのが見えた。何を考えているのやら。「風月(ふうげつ)?」

風月(ふうげつ)は焦点の定まらない目で、しばらくしてようやく金鳳の姿を捉えた。しばらく呆然と見つめていたかと思うと、突然、大粒の涙をこぼし始めた。「娘娘!」 金鳳に抱きつき、顔を肩にうずめて、声を上げて泣いた。

「どう……どうしたの?」 風月(ふうげつ)がこんな様子を見せるのは初めてで、金鳳は戸惑った。「……娘娘……」 風月(ふうげつ)はただ涙を流すばかりで、理由を話そうとしない。

金鳳は頭を抱えた。風月(ふうげつ)の涙が紗衣にしみ込み、硬い生地が肩に張り付いて、ひどく不快だった。風月(ふうげつ)の背中を優しく叩きながら、「落ち著いて、落ち著いて。何かあったら言いなさい。皇后である私の前で、一番の寵臣である風月(ふうげつ)を誰が苛めたというの? 命が惜しくないのかしら?」と声をかけた。

「娘娘……」風月(ふうげつ)は楽な姿勢に変え、泣きながら体をすり寄せた。「あの……風月(ふうげつ)、誰があなたを苛めたのか言いなさい。私がお尻を叩いてあげましょう」

「娘娘!」風月(ふうげつ)は怒って金鳳から顔を上げ、力強く涙を拭った。「娘娘ったらまたからかってる! 泣くことすらさせてくれないなんて!」

金鳳は仕方なく両手を広げた。「わかった、わかった。泣きなさい。私は何も言わないから……」 皇后という身分でこんな目に遭うなんて、本当に苦労が多い。

ちょうどその時、段雲重(うんちょう)を追いかけて行った侍女が戻ってきて報告した。「娘娘、閭王爷は何も用はないから、来ないとおっしゃっていました。閭王爷はさらに……」 そこで侍女は口ごもった。「さらに何?」

「閭王爷はさらに、奴婢に伝えてほしいと……宜春院に行くそうです!」 「えっ?」 金鳳は口をあんぐり開けて、自分の耳を疑った。それを聞いた風月(ふうげつ)は、さらに激しく泣き出した。「宜春院?」皇后は激怒した。

「くそったれの!」 風月ともう一人の侍女の頭の中で、けたたましい警鍾が鳴り響いた。皇后が「くそったれの」と言い始めると、事態は深刻で、皇后がひどく怒っていることを意味する。

「宜春院に行くのがそんなに名誉なこと? 皇帝を騙して一緒に連れて行った件も、まだ彼とは決著がついていないのに!」 金鳳は怒りで全身が震えた。「私……私……私は今回は彼を許さない!」

誰が段雲重(うんちょう)はこの二年、大人しくなったと言った? くそったれの! 「娘娘……」もう一人の侍女も泣き出しそうだった。娘娘はご存じないのだろうか、閭王爷の「くそったれの」は、同時に皇帝陛下の「くそったれの」でもあるということを!

騒ぎの中、風月の泣き声が再びひときわ大きくなった。「娘娘! 彼……彼は宜春院に行くんです!」「そうよ、彼はまさか……」 言葉を途中で金鳳は言葉を詰まらせた。

段雲重(うんちょう)が宜春院に行くのに、わざわざ侍女に伝言を頼むだろうか? 伝言が彼女宛てではないとしたら、一体誰宛てなのだろうか? 金鳳は疑いの目を風月に向けた。

以前、風月は段雲重(うんちょう)を見ると、まるで猫を見た鼠のようだった。だからこそ、段雲重(うんちょう)は毎回香羅殿に来るたびに、風月をからかって、彼女が自分を怖がらなくなるようにしていた。もしかして、そんなことから二人は想いを寄せ合っていたのだろうか?

段雲重(うんちょう)の怒った様子、風月の泣き崩れる姿、おそらく二人は喧嘩をして、段雲重(うんちょう)はわざと風月を怒らせるようなことを言ったのだろう。金鳳は急にめまいがした。今は夏から秋に移り変わる季節なのに、どうして辺り一面が春の息吹に満ちているような気がするのだろう?

頭を悩ませていると、侍女が軒羅殿の小孫子が謁見を求めていると報告に来た。「小孫子? 皇帝の側で仕えているはずなのに?」 小孫子は恐る恐る歩み寄り、跪いたまま何も言わない。

「何かあったの?」 小孫子の震える背中を見て、金鳳は何かが起こりそうな予感がした。「娘娘!」 小孫子は額を床に打ち付けて言った。「皇帝陛下から、自分が宮殿にいない時に何かあったら、娘娘に相談するように言われております……」

金鳳はハッとした。彼の言葉の重要な部分に気づいた。「皇帝が宮殿にいない?」 今はすでに二更天だ。皇帝が宮殿にいないとしたら、どこにいるのだろうか?

「娘娘……皇帝陛下はいつもこの時間にはお戻りになっているのですが、今日はまだ戻っていらっしゃいません。何かあったのではないかと、私は心配で……」 小孫子は声が震え、額から汗がぽたぽたと滴り落ちた。

金鳳はしばらく黙り込み、心臓が胸から飛び出しそうになるのを感じた。「小孫子、あなたは皇帝が普段、宮殿を出るとき、どこに行くのか知っているでしょう」 小孫子はしばらく口ごもっていたが、ついに三文字を口にした。「宜春院」

また宜春院。段雲嶂(だん・うんしょう)が宜春院に行ったことがあるのは、彼女は知っていた。しかし、初めて行った後、何回行ったのかは知らなかった。今、遊郭遊びで面倒を起こしたとは、段雲嶂(だん・うんしょう)もなかなかやるものだ。彼女はため息をつき、風月に言った。「もう泣かないで。彼らが行ける宜春院に、私たちが行けないわけがないわ」