白狐児脸は再び閉関に入った。聴潮亭に足を踏み入れた途端、湖面は完全に砕け散り、それだけでなく、湖全体が揺れ動き、無数の錦鯉が水面から飛び跳ねた。魚幼薇(ユー・ヨウウェイ)はその光景に茫然自失となった。
上陰学宮の授業は多岐にわたるが、唯一、鬼神の話は禁じられている。しかし、目の前の怪異な光景を、魚幼薇(ユー・ヨウウェイ)は人力で為せるものとは信じられなかった。万鯉朝天を幾度も見てきた姜泥(ジャン・ニー)でさえ眉をひそめ、その原因が分からずにいた。
徐鳳年(シュー・フォンニエン)は少し考え、低い声で悪態をつき、尻まで齧った胡瓜を湖に投げ入れた。
御者の老黃(ラオ・ホワン)は両手を袖に入れたまま小走りでやって来た。おそらくは野次馬根性からだろう。
この老僕の王府での身分は少し特殊だった。親兄弟もなく、ただ世子殿下と二郡主の馬を長年世話してきたため、陰険な性格の沈大管家でさえ、老馬夫を見ると足を緩めて会釈するほどだった。そして老黃(ラオ・ホワン)は誰に対しても万年変わらない朴訥な様子で、口を開けて、歯の抜けた口で、にこにこと笑うのだった。
徐鳳年(シュー・フォンニエン)は老黃(ラオ・ホワン)に腰を下ろすように促した。湖面は既に静まっていた。
下人に命じて烏篷船を用意させ、姜泥(ジャン・ニー)、魚幼薇(ユー・ヨウウェイ)、老黃(ラオ・ホワン)を連れて湖心で温酒賞雪に出かけることにした。老黃(ラオ・ホワン)は馬の世話と暇を見つけて酒を飲むこと以外には興味がないため、喜んでついてきた。老顔全体が笑みに満ちていた。
船内に入ると、老黃(ラオ・ホワン)は火炉を拠え、適時に薪をくべた。酒は黄酒ではなく、陵州特産の土酒で、王府の地方の荘園で醸造された新酒だった。酒の表面には見栄えのしない酒粕が浮かび、色は微かに緑色で、蟻のように細かい。陵州の貧乏人たちが緑蟻酒と呼んでいるもので、それほど高級なものではないが、大柱国はこの酒を好んでいた。
緑蟻酒が本当に有名になったのは、北涼王府の二郡主が十歳の時に作った詩『弟賞雪』の最初の句「緑蟻新醅酒、紅泥小火炉」がきっかけだった。涼地の多くの士子に称賛され、その後広く伝わり、京の多くの清談名士に絶賛された。そして、冬に緑蟻酒を温めて飲むことが一時的な流行となった。
北涼王徐驍( シュー・シャオ)には二人の息子、徐鳳年(シュー・フォンニエン)と徐龍象(シュー・ロンシャン)、二人の娘がおり、長女は徐脂虎(シュー・ジーフー)、次女は徐渭熊(シュー・ウェイシオン)である。二郡主という名前には少しも女性らしさはない。幼い頃から聡明で、剣術に秀でており、詩詞はさらに人々を驚かせ、度量が大きく、十六歳で上陰学宮に入学し、韓穀子に経緯の術を学んだ。唯一の欠点は、二郡主は才気煥発だが、容姿は平凡で、大郡主や世子殿下のように美しくはないことだった。
姜泥(ジャン・ニー)は相変わらず酒を飲まなかった。彼女は緑蟻酒が嫌いだったのだ。あの女に関係するものは全て嫌いだった。その憎悪の度合いは、徐鳳年(シュー・フォンニエン)に次ぐものだった。
魚幼薇(ユー・ヨウウェイ)は幾杯か飲み、残りは徐鳳年(シュー・フォンニエン)と老黃(ラオ・ホワン)が飲み幹した。
聴潮亭では、臨戦態勢のような緊迫した空気が漂っていた。厚い狐裘をまとった大柱国は一行が船に乗り込むのを見て、手を一振りすると、王府内の六、七人の影の高手たちがゆっくりと退却し、その中の五人の守閣奴のうち三人が姿を現した。
酒に酔った徐鳳年(シュー・フォンニエン)は、朦朧とした目で姜泥(ジャン・ニー)を指差し、次に魚幼薇(ユー・ヨウウェイ)を指差し、へらへらと笑って言った。
「お前も、お前も、結局のところ何も恨みはないはずなのに、まるで不倶戴天の敵同士みたいだな。俺を殺したいのか?いいだろう、姜泥(ジャン・ニー)、神符を出せ。一突きさせてやる。俺の烏夔宝甲が丈夫なのか、お前の匕首が鋭いのか、試してみようじゃないか。賭けをしよう。お前が勝ったら、結果は言うまでもない。もし俺が勝ったら、笑ってみせろ、太平公主。どうだ、この取引は割に合うか?」
姜泥(ジャン・ニー)は美しい目を細め、今にも飛びかかりそうな様子だった。
姜という姓。神符。太平公主。
母親はかつて先帝の剣侍で、父親は西楚の散官だった魚幼薇(ユー・ヨウウェイ)は、手が震え、抱いていた武媚娘が気だるそうに鳴き声を上げた。
徐鳳年(シュー・フォンニエン)は身にまとっていた高価な狐裘を脱ぎ捨て、中の襟元を開き、旅から帰ってきて以来、ずっと身に著けていた紺色の宝甲を見せ、胸を張って言った。「さあ、突いてみろ。」
姜泥(ジャン・ニー)は躊躇し、隙を伺っていた。まるで若い豹のようだった。
老黃(ラオ・ホワン)は血を見ることを心配していなかった。坊ちゃんは最初の三年間は江湖の経験不足で苦労したが、後になるほどずる賢くなった。
結局、彼女は魅力的な機会を諦め、冷笑した。「損をするような取引をするはずがない。あなたを信じるくらいなら、鬼を信じるわ。」
徐鳳年(シュー・フォンニエン)は素早く服を著直し、狐裘を再び羽織り、哈哈大笑した。「よかったよかった。冷や汗をかいたぜ。酒はやっぱり飲みすぎちゃいけないな。老黃(ラオ・ホワン)、船を漕げ。帰ろう。鬼門関から命拾いしたようなもんだ。」
姜泥(ジャン・ニー)の目には悔しさが満ちていた。
老黃(ラオ・ホワン)は坊ちゃんと一緒に大笑いした。
岸に上がると、姜泥(ジャン・ニー)は憤慨して去っていった。
魚幼薇(ユー・ヨウウェイ)は彼が院子に送ってくれた貂裘を著ていなかった。徐鳳年(シュー・フォンニエン)は王府で最も豪華な狐裘を彼女に渡し、ついでに武媚娘の小さな頭を撫で、何気ない様子で言った。
「お前は鳳州訛りで正体を隠していたが、芭蕉院でのちょっとした試探でボロを出した。船上では、またしても西楚の太平公主という半真半偽の言葉でお前の尻尾を掴ませた。幼微、お前は本当に刺客や死士には向いていない。これからは籠の中の鳥、金糸雀として安心して暮らせ。ほら、騙してないだろう?ここには絶景の雪景色がある。」
そう言うと、徐鳳年(シュー・フォンニエン)は追いはぎの隠語で「風向きが悪い、逃げろ」と叫び、老僕の老黃(ラオ・ホワン)を連れて走り去った。
高価な狐裘を羽織った魚幼薇(ユー・ヨウウェイ)は、その場に立ち尽くしていた。身にまとっているのは狐裘なのか、雪なのか、分からなかった。
……
離陽王朝乾元六年、旧暦十二月二十八日、北涼王徐驍( シュー・シャオ)と世子徐鳳年(シュー・フォンニエン)は夜明けに出発した。陳芝豹(チェン・ジーバオ)と褚祿山 (チョ・ロクザン)を除く四人の義子全員が同行し、三百騎の鉄騎を率いて、浩浩蕩蕩と昆州境内の九華山へ向かった。
九華山は地蔵菩薩の道場であるが、離陽王朝は常に道教を尊び仏教を抑えてきた。また、九華山は辺鄙な地にあり、参拝できる大きな寺院や仏像もなく、さらに近年は大柱国が信徒を追い払おうとしてきたため、ひっそりと佇むような場所となっていた。
山頂には千仏閣があり、楼頂には万鈞の鍾が弔るされている。この鍾を撞くのには大変な決まりがあり、一日に百八回撞かなければならない。一回たりとも多くも少なくもいけない。朝に撞き、夕べにも撞く。毎回、速く十八回、遅く十八回、そして緩やかに十八回、これを二度繰り返す。こうして一日合計百八回、一年の十二月、二十四節気、七十二候に対応し、仏教では百八つの煩悩を消滅させる意味があるという。
王妃が亡くなって後、生涯妾を娶らなかった徐驍( シュー・シャオ)は再婚しないと決意し、毎年清明、重陽、そして旧暦の二十九日には自ら山頂の千仏閣に登り、朝晩二度鍾を撞くようになった。
山門に入る前から、皆は暗黙の瞭解で甲冑を脱ぎ、馬を降りた。徐驍( シュー・シャオ)と徐鳳年(シュー・フォンニエン)は並んで歩き、四人の義子、袁左宗、葉熙真、姚簡、そして斉当国は少し距離を置いて、礼儀をわきまえていた。
四人の中で「左熊」こと袁左宗は、万軍の中においても敵将の首を易々と取る先鋒タイプの武将で、武力は超一流、行軍布陣にも長けていた。
葉熙真は儒将で、陽謀に優れ、幕後での戦略立案を得意としており、陰謀を好む禄球児とは正仮対の性格だった。
姚簡は道教の傍流の出身で、風水に精通し、いつも擦り切れた『地理青囊経』を携帯し、暇さえあれば地面にしゃがみこんで土を口に含むのが好きだった。斉当国は北涼鉄騎、徐家の王旗を掲げる旗手であった。
六子筆頭である陳芝豹(チェン・ジーバオ)は、「小人屠」と呼ばれ、その功績は枚挙に暇がない。
その夜、六人は山頂の古寺に宿泊し、旧暦二十九日の朝晩、大柱国徐驍( シュー・シャオ)は百八回の鍾を撞いた。下山前、黄昏時、徐驍( シュー・シャオ)と徐鳳年は千仏閣の回廊に立っていた。大柱国は低い声で言った。「お前が冠礼を行ったら、これからはお前が鍾を撞くのだ。」
徐鳳年は頷いて「うん」と答えた。
山風が吹き始め、夕暮れの中で雲海が散り、峰々はまるで海に浮かぶ仙島のようだった。再び山風が吹き、峰々は雲海の波濤の中に隠れてしまう。雄大な景色だった。時折、雲海の中から十数本のキノコのような太い雲柱が天に向かって立ち昇り、ゆっくりと落下して散り、糸のように細い遊雲へと変化する。これは九華山特有の景色だった。
徐驍( シュー・シャオ)は手を伸ばしてその神秘的な光景を指し示し、言った。
「何十年も順風満帆でいられる者は極めて少ない。上がったり下がったりするのが常だ。朝廷にいる棺桶に片足を突っ込んだような三朝元老たちでさえ例外ではない。わしのこの栄華は幾度もの大博打で勝ち取ったものだ。だから、人が言う『高く登れば落ちるのも大きい』という言葉が一番嫌いだ。落ちて、お前たちを巻き添えにするのが怖い。武将として異姓の王に封じられるのは頂点に達したということだ。文臣としても大柱国は極緻だ。この莫大な栄誉は、離陽王朝四百年で数えるほどしかない。」
父子で眺める景色は、まるで大海原の波のように、雪玉が転がるように変化していった。
大柱国の声は醇厚で正しく、緑蟻酒特有の強い香りが漂っていた。
「ここにはわしと鳳年、二人だけだ。せいぜい天にいるお前の母上を加えて三人だ。部外者はいない。だからはっきり言おう。李義山(リー・イーシャン)が言った通り、功績を立てるのは簡単だが、名声を捨て去るのは難しい。わしはもう後戻りできない。
三年前に朝廷はお前を都に召し出そうとした。陛下は最も寵愛する十二公主との縁談まで持ちかけてきた。その時、お前は都に行って錦繍の肩書きを持つ駙馬となるはずだった。実際は人質だ。だが、わしはそれを断り、お前を三年間、六千裏の徒歩旅行に行かせ、朝廷の口を封じた。しかし、これは根本的な解決にはなっていない。
わしは待っている。もし陛下がまだ諦めないなら、哼!徐驍( シュー・シャオ)は十歳で刀を手に人を殺し、四十年の軍歴がある。道徳的文章など読んだことはない。その時になったら、徐驍( シュー・シャオ)を不忠不義だと責めるな!徐家の王旗の下には三十万の北涼鉄騎がいる。誰が正面切って戦えるというのだ?」
徐鳳年は苦笑いしながら言った。「父上、私は皇帝の座には興味がありません。いい歳をして、苦労して天下を取って息子に皇帝をさせるような馬鹿なことはしないでください。私が皇帝になったとしても、世子でいるより楽だとは思えません。」
徐驍( シュー・シャオ)は怒って睨みつけた。「では、お前は喜んで駙馬になるというのか?あの魚という女と同じように籠の鳥になるというのか?」
徐鳳年は白目をむいて言った。「たとえ仮乱を起こしたとしても、父上が皇帝になれるとは思えません。涼地には龍が出るような風水はありません。天下統一をした者もいません。」
徐驍( シュー・シャオ)はため息をついた。「李義山(リー・イーシャン)も同じことを言っていた。もしお前が李翰林のような役立たずだったら、わしはどうでもよかった。駙馬になってもいい。他人の家に身を寄せても、少なくとも皇宮の屋根の下だ。
お前の姉上は上陰学宮に行く前にわしに言った言葉が的を射ていた。一族が表面上は繁栄していても、中身が空っぽでは意味がない。特に後継ぎがいないことを心配している。裕福な一族ほど、子孫が代を重ねるごとに落ちぶれていくと、収入が支出を下回るよりも恐ろしい。
だから、わしはお前が浪費することを恐れてはいない。しかし、鳳年、お前はわしに大きな難題を与えた。わしに本音を教えろ。将来、北涼の兵符を握りたいと思っているのか?その時、お前の姉上が軍師になり、黄蛮児がお前のために先陣を切って戦い、わしの六人の義子を加えれば、たとえわしが死んでも、三十万の鉄騎は混乱することも散り散りになることもない。」
徐鳳年は逆に尋ねた。「父上はどう思われますか?」
徐驍( シュー・シャオ)はとぼけて言った。「わしはいい歳だ。苦労してこれだけの財産を築いたのだ。この親不孝者はわしに少しは夢を残してくれるだろう?」
徐鳳年は豪快に言った。「それは問題ありません。財産を散財することですか?私の得意技です。」
大柱国の曲がった腰は、その瞬間、こっそりと伸びたように見えた。
……
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