『上古』 第82話:「神罰」

神罰、と真神が高座から軽く一言を放つと、羅刹地は異様な静寂に包まれた。

半空から投げかけられる冷ややかな視線にゆっくりと晒され、青漓の額にはびっしりと冷汗が滲み、驚愕の表情で言葉を失った。

数千数万の妖族が一斉に顔を上げ、目を見開く。残された百名ほどの仙将たちは息を潜め、目を伏せて何も聞いていないかのように振る舞っていた。常に風格を保っていた妖皇の顔にも、奇妙な色が浮かんでいた。

公正明義?仙族は常に自らを上仙と称し、その原則に従って行動することに何の異論も挟まない。妖族は生まれつき好戦的で邪悪な性質を持つと言われるが、一族を統べるには、この四文字も欠かせない。

太古より上古(じょうこ)界を統治し、衆生の上に君臨する上古(じょうこ)真神が、仙妖両族の前で「公正明義とは何だ?」と口にする。一同は呆れながらも、内心では戦慄した。あなたが守らなければ、それは確かに何物でもない!

青漓は唇を何度も動かして、高座の人物を見つめ、やっとのことで「では……」と言いかけたが、「何物でもない」という言葉は最後まで口に出せなかった。

「わしは両族の争いに介入しないと約束したが、弑神花を地獄の外に出すことは上古(じょうこ)の律条に仮する。妖皇よ、誰が弑神花を地獄から持ち出したのだ?」上古(じょうこ)は青漓から視線を外し、妖皇に冷然とした視線を向けた。

森鴻は既に上神に昇格していたが、上古(じょうこ)は羅刹地で命を落とした妖兵の中に弑神花で死んだ者も少なくないと見ていた。彼の性格からすれば、このような魔物を持ち出して一族を災禍に巻き込むはずがない。

妖皇が口を開く前に、多くの妖兵と仙将たちは一斉に森鴻の背後に立つ青漓を見た。一同の様子を見て、上古(じょうこ)は当然のことのように眉を少し上げ、再び青漓に視線を戻した。

「一介の妖君が、弑神花を地獄から持ち出せると?」

「神君、お許しください。青漓は一時の迷いで……」青漓は地に跪き、美しい顔にわずかな動揺を見せながら、妖皇に助けを求めるように視線を向けた。

「神君、青漓は三界の律条に違仮しました。私は既に彼女を淬妖洞で百年の刑に処しました。どうか神君、お許しください。」青漓がどんなに間違っていても、それは妖界のためだった。森鴻は少し考え込み、一歩前に出て嘆願した。

上古(じょうこ)は片手で石の椅子を軽く叩き、「妖皇よ、もし今日お前がいなければ、弑神花は羅刹地から逃げ出し、三界にどれほどの混乱をもたらすか分かっているのか?」と言った。

先ほど弑神花で命を落とした妖兵たちを思い出し、妖皇は言葉を詰まらせ、ためらいの色を浮かべて黙り込んだ。

上古(じょうこ)が事を穏便に済ませるつもりがないのを見て、青漓は隠していた眼底に一抹の憤りを走らせた。

上古(じょうこ)が手を振ると、一道の神力が青漓に降り注いだ。淡い紫色の光が漏れ出し、上古(じょうこ)の神力を遮り、青漓を守った。上古(じょうこ)は眉を少し上げ、「これがお前が弑神花を地獄の底から持ち出せた理由か?」と言った。

妖しい紫色の光はかすかな神威を帯びており、青漓の周りの妖兵たちは思わず後ずさりした。

青漓は突然数歩後退し、驚慌した表情で、顔面蒼白になった。一同はこの光景を驚きながら見つめ、妖皇の表情さえもわずかに変化した。

かつて青漓は妖丹を使って森羽(しんう)の命を救い、その後は何事もなかったばかりか、妖力も大幅に増した。妖界の人々は、彼女が妖狐一族の血脈を覚醒させたからこそこのような幸運に恵まれたのだと思っていた。青漓の体内にこれほど強大な妖力が宿っているとは誰も思っていなかった。もし彼が間違っていなければ、これは明らかに真神的気息だ!

「百年、淬妖洞に閉じ込められていたと?」上古(じょうこ)は妖皇を見上げて笑って言った。「森鴻よ、この妖力が守っているのなら、淬妖洞の氷刑も大したことなかっただろう!」

森鴻は頭を下げ、心底の驚きを抑え、「神君、森鴻の失態です。」と恭しく言った。

この神力はきっと青漓の妖力が増大した原因だろう。上古神君はそれが誰から来たものか知らないはずがないのに、あえて口に出さない……。

「青漓よ、お前は弑神花を地獄の底から持ち出した。妖皇はお前に百年の氷刑を科したが、わしは寛大な処置をしてやろう。」上古は跪いている青漓を見ながら、まるで何気ない様子で、表情はますます冷淡になっていった。

弑神花は三界で最も邪悪な物であり、この花を持ち出した者の心性は必ず陰険で邪悪なものだ。この神力を彼女に残しておけば、いずれ災いを招くことになるだろう。

青漓はそれを聞いて喜び、顔を上げて感謝しようとしたが、上古の表情を見た瞬間、心底が冷え込んだ。

「この護身の神力がお前の体に散らばる……それがお前が三界に混乱をもたらした代償だ!」

声が途切れると、銀色の光が上古の手から放たれ、稲妻となって青漓に襲いかかった。紫色の光幕が砕け散り、青漓の全身が宙に浮き、淡い紫色の神力が一筋ずつ青漓の眉間から漏れ出し、空中に消散していった。

「神君、お許しください!」青漓は宙に浮き、恐怖に満ちた表情で叫んだ。彼女が妖族の中で今の地位を得られたのは、全て天啓(てんけい)が彼女に授けた一道の神力のおかげだった。もしそれを失えば、命を奪われるも同然だ!

銀色の神力が青漓の全身を包み込み、一同は青漓の顔が一瞬で蒼白になり、助けを求める声が突然途絶え、妖艶な顔が歪んで異様になり、神力が体から散っていく音が耳をつんざくように響くのを見た。

青漓が一介の下君からここまで修練できたのは、きっと妖丹が既にあの奇妙な妖力と一体化していたからだろう。もしそれを無理やり取り除こうとすれば、骨を削り肉を剝ぐような苦痛に等しい……。ましてや妖族では強者が尊ばれる。彼女は今後、もはや何の将来もないだろう!

石の椅子に座り、平静で冷淡な表情の上古を見つめ、その場にいた仙妖は一斉に身震いし、頭を下げてさらに恭しくなった。

不安な静寂の中、二つの強大な神力が羅刹地の天から伝わってきた。妖皇は目を細め、背後の妖兵たちに数メートル後退するよう静かに指示した。

どうやら天宮の人々がついに到著したようだ……。

二人の人影が羅刹地の空に現れ、宙に浮いている青漓を見て一瞬たじろぎ、上古に一礼してから怒鳴った。「森鴻、景澗(けいかん)に何をした!」

「陛下、二殿下は界門を守るために、既に……既に……」傍らの仙将は言葉に詰まり、頭を下げて目を赤くした。

天帝(てんてい)の顔色は極度に沈み、同様に妖皇を睨みつけ、目には晴れない悲しみが浮かんでいた。

上古は暮光(ぼこう)と蕪浣(ぶかん)がこう尋ねるとは思っておらず、眉をひそめて言った。「景澗(けいかん)……?」

彼女が来た時、鳳染(ほうせん)は既に涅槃を迎えており、景澗(けいかん)の存在を知る由もなかった。天啓(てんけい)は鳳染(ほうせん)と暮光(ぼこう)の子である景澗(けいかん)に因縁があると仄めかしていたが、まさか彼女の涅槃の選択にもこの人物が関わっているのだろうか?何故かこの名前に奇妙な既視感を覚え、上古は両陣営に視線を向けた。

「天后(てんこう)、何故そこまで憤慨なさるのですか。かつて私の父皇もあなた方に追い詰められ、戦死したではありませんか。今日の景澗(けいかん)の結末は因果応報に過ぎません!」森鴻は鋭い視線を向け、冷たく言い放った。

「貴様…!」

鳳羽扇が突如天后(てんこう)の手に現れ、半丈の大きさに変化し、森鴻へと襲いかかった。天帝(てんてい)もまた青ざめた顔で、背中に組んだ両手の血管が浮き出ていた。

真紅の長戟が五彩の羽扇を受け止め、膨大な霊力が羅刹地の上空を歪ませた。森鴻は妖兵を守りつつ、天后(てんこう)の怒りにも対処しなければならず、明らかに劣勢だった。

この激突する神力に影響され、天界の界門前の灰白色の炎が微かな悲鳴を上げた。上古は冷たく目を細め、銀色の神力が虚空に降り注ぎ、二つの霊力を無に帰した。二人は衝撃で数歩後退し、同時に石座に座り冷然とした表情の上古へと視線を向けた。

「もう一度言います。仙妖の争いには介入しません。しかし鳳染(ほうせん)が涅槃を迎える前に、羅刹地で武力を行使する者は、私と敵対することになります!」

両陣営の間に突如として激しい炎が燃え上がり、威厳に満ちた冷徹な声が羅刹地上空に響き渡った。

天后(てんこう)はようやく天界の界門前の灰白色の炎に気づき、顔色を変え、唇を固く結んで天帝(てんてい)の傍らに下がった。

傍らの仙将が上古に跪いた。「真神、二殿下は我々のために兵解の術を用いて界門を守ったのです。どうか神君、炎を収めてください。我々に妖皇と一戦をさせてください。たとえ死しても、本望です!」

「我々…」この「我々」には当然鳳染(ほうせん)も含まれていた。仙将の目に隠しきれない憎しみを見て、上古はため息をついた。万年にも及ぶ戦いで、両種族の血の仇は深く刻まれ、誰が正しく誰が間違っているのか、もはや語る術もなかった。

「あなたがたが死ねば、景澗(けいかん)の命は無駄になるではありませんか。」上古は厳かに言い、暮光(ぼこう)に視線を向けると、彼の目に深い悲しみを見て、憐れに思い、嘆息した。「暮光(ぼこう)、六万年ぶりですね。まさかこのような状況で再会するとは。」

天帝(てんてい)は上古に視線を向け、頭を下げた。「神君、暮光(ぼこう)は神君のご期待に背きました。仙妖万年もの間安寧を得られず、全ては暮光(ぼこう)の過失です。一界の主として、本来ならば事を収めるべきでした。しかし…」暮光(ぼこう)は顔を上げ、声はまるで瞬時に老いたようだった。「子の仇を報じなければ、父の名が廃る!」

彼は上古に頭を下げ、半礼をし、その姿は寂しげだった。

妖皇は軽く鼻を鳴らし、嘲笑した。「暮光(ぼこう)、貴様ら仙族の命は貴重だが、我ら妖族は泥でできているとでも言うのか?かつて天后(てんこう)が戦場で私の父皇を追い詰めて殺した時、どれほど意気揚々としていたか、我ら妖界に攻め入った時、どれほど傲慢だったか、今日があることを考えたことがあるか?仙妖の戦は我ら妖族の過ちではない。たとえ今日敗北しようとも、私、森鴻は一歩も退かぬ!」

森鴻は一歩前に進み、凛とした表情を見せた。天帝(てんてい)の悲しみとは対照的に、背水の陣の覚悟は引けを取らなかった。

「よく言った!我ら妖族の皇者のあるべき姿だ!」豪快な声が遠くから響き、二つの影が天を劃り羅刹地上空に現れた。青色の衣を纏った三火はににこやかに笑い、満足げな表情で言った。「森鴻、お前は親父より胆力があるな!」

常沁(じょうしん)は界門前の灰白色の火球に一瞥をくれ、軽く息を吐き、妖皇の背後に下がった。三火の様子を見て、少し困ったような表情を見せた。

彼女は鳳染(ほうせん)が羅刹地に来たと知り、良くないことが起きると予感していた。急いで駆けつけたが、やはり遅かった。

妖皇は喜びの表情で三火に頷き、感謝の意を示した。三火は半神ではあるが、白玦(はくけつ)真神の傍らに長年仕え、その神力は彼にも劣らない。彼がいれば、たとえ天帝(てんてい)天后(てんこう)が相手でも、無事に退却できるだろう。

上古は懶惰そうに両陣営の緊迫した様子、そして図々しく振る舞う三火を眺め、自分が見ていないふりをして、眉を上げた。まさに何か言おうとしたその時、青漓が半空から落ちてきた。彼女は暮光(ぼこう)と蕪浣(ぶかん)に気を取られ、先ほどのことを終わらせるのを忘れていたことを思い出した。

誰も手を出さないのを見て、常沁(じょうしん)は考え、一歩前に出て妖力で青漓を支えた。この状況に少し驚いた様子だった。

青漓は力強く彼女を突き飛ばし、地面に倒れ、全身を震わせた。彼女は起き上がろうとしたが、わずかな妖力も使えず、全身の妖力の八、九割が失われ、下級の妖将にも劣る状態だった。常沁(じょうしん)が向ける視線は針のように突き刺さり、青漓は顔を上げ、上古の方向を見つめ、怨嗟に満ちた表情で、突然笑い出した。その様子は恐ろしいほどだった。

彼女は顔を向け、数歩先の常沁(じょうしん)を見て、両目は異様なほど赤く染まっていた。「常沁(じょうしん)、満足したか?私は今、妖力を失い、もう二度と森羽(しんう)を奪えない。お前は得意だろう?」

常沁(じょうしん)は眉をひそめ、冷たく言った。「私と森羽(しんう)は何百年も前に縁を切った。」

「ああ…忘れていた。お前は第三重天で彼と完全に別れたんだっけ。」青漓は口元に笑みを浮かべ、上古の方向を見た。「あの時は鳳染(ほうせん)と上古神君があなたを助けたのよね。私の記憶力って本当にひどい。」

常沁(じょうしん)はわずかに顔色を変え、上古を見て、苦い笑みを浮かべた。

数ヶ月前、天啓(てんけい)真神と白玦(はくけつ)真神は同時に三界に御旨を下し、仙妖両種族の誰であろうと後池(こうち)上神のことを口にすることを禁じた。以前、彼女は上古真神が少し前に蒼穹之境を訪れたと聞いており、常沁(じょうしん)は心に疑念を抱いていた。後池(こうち)の性格からして、たとえ真神の身分を取り戻しても、古君(こくん)と柏玄(はくげん)の死に対して何のわだかまりもないはずがない。先ほど三火に会い、尋ねたところ、覚醒した上古真神は既に百年も前の後池(こうち)のことを覚えていないと知り、心の中でため息をつきながらも少し安堵した。あの時のことが上古真神に知られれば、上古は必ず白玦(はくけつ)真神と敵対するだろう。そして白玦(はくけつ)真神の庇護を受けている妖界は…危うい。

上古はゆっくりと体を起こし、目の中の無頓著な表情は消え、わずかに顔色を変えた人々を見て、目尻を少し上げた。

「上古神君、この件はたった二百年前のこと、きっとまだお忘れではないでしょう。」青漓はにこやかに笑い、上古の表情が少し厳しくなるのを見て、地面から起き上がり、スカートの埃を払った。「かつてのご恩、今日のこの気持ち、青漓は本当に恐縮至極、決して忘れません。」

「お前という小狐は本当に面白い。さあ話してみろ、この恩情、どのように報いるつもりだ?」上古は顎に手を添え、表情を読み取れない様子だった。

「青漓は恐れ多いです。」青漓は頭を下げ、一歩一歩上古の方向へ歩いて行った。一歩一歩がまるで全力を尽くしているようでありながら、決して立ち止まることはなかった。「神君は私が三界の律条を無視したと言いましたが、私、青漓がどんなに酷いことをしたとしても、上古神君には及びません…聚霊珠、鎮魂塔、聚妖幡を盗み、私利私欲のために三界の衆生を見捨てたこと。両界の主によって百年もの間無名の世に追放され、三界の笑いものになったこと。あの日、蒼穹之巔で…」

「黙れ、妖狐。神君の御前にて、出過ぎた真価をするでない!」天后(てんこう)が突然声を発し、冷厲な表情で青漓を見拠えた。背中に回した手は微かに震えていた。

かつて天啓(てんけい)が語った言葉が今も耳に残る。もし上古が百年前の真実を知ったら…

青漓は天后(てんこう)の方へ顔を向け、目を細めて嘲笑した。「天后(てんこう)陛下、上古界にいた頃、あなたは上古神君の御下で神獣だったと聞いています。百年前の些細な出来事を、今になっても上古神君はお咎めになっていません。きっと気にも留めていないのでしょう。あなたも何故そんなに心配するのです?」

白玦(はくけつ)真神が何故妖界に後池(こうち)の事を口にするのを禁じたのか、彼女は知らない。しかし今、妖力を失い、人生の半分を棒に振った彼女には、もはや恐れるものは何もない。あの威風堂々とした上神たちにも、人には言えない過去がある。高座に鎮座していようとも、所詮は俗物に過ぎないのだ!

誰も口に出さないのなら、彼女が敢えて皆の前で語り、上古の面目を潰してやろう!

「貴様…」

天后(てんこう)は顔色を変え、不安は更に募った。五色の霊力が手に現れ、青漓へと放たれたが、彼女の額に触れる寸前で誰かに受け止められた。

天后(てんこう)の目に見えた殺気に驚いたのか、青漓は二歩後ずさりし、ようやく恐怖を感じ始めた。

「蕪浣(ぶかん)。」上古は霊力を収め、蕪浣(ぶかん)を一瞥し、少し声を張り上げた。「三宝を盗み、二界の主によって天界から追放された?」

蕪浣(ぶかん)の表情に僅かな動揺が見え、暮光(ぼこう)もまた戸惑いを感じているのを見て、上古は石座から立ち上がり、物憂げな表情で宙に浮き、ゆっくりと青漓へと歩み寄った。

彼女は青漓の上空に立ち止まり、黒髪をなびかせ、威圧的な態度で言った。「三宝を盗んだ?青漓、聚霊珠、鎮魂塔、聚妖幡は私が混沌の力を使って創造したものだ。これらは元々私の所有物であり、たかが三つの霊器、私が欲しければ、『盗む』などという言葉を使う必要もない。」

「天界からの追放については…」上古は唇の端を少し上げ、視線を少し落とした。「私が上古であろうと後池(こうち)であろうと、私の意思に仮して、誰にも私を無名の地へ追放する事は出来ない。」

玄色の衣は優雅になびき、青漓は呆然と上古を見つめていた。彼女の眉間の淡々とした威厳に圧倒され、息も詰まるようだった。彼女の言う通り、かつて擎天柱の下で、後池(こうち)は自ら神位を削り、自ら無名の地へと追放された。二界に包囲されたとしても、彼女は一言も命乞いをしなかった。

「蒼穹の境については…私の事柄に、お前がとやかく言う権利はない。」

たとえ彼女が過去の出来事を忘れていようとも、上古の事柄、正しかろうと間違っていようと、彼女自身が決めることだ。

天后(てんこう)はこの言葉を聞き、密かに息を吐き出し、握り締めていた手をゆっくりと緩めた。

上古は言葉を止め、宙に立ち、仙界と妖界の双方を見渡し、眉をひそめた。

「私の御旨を伝えよ。妖君青漓は、地獄の弑神花をみだりに動かした罪により、三界の鉄律に違仮した。地獄の底、弑神花の傍らに幽閉する。弑神花の妖兵に倒され、魂が本来の姿に戻るその時が、青漓が地獄を出る時となる。」

銀色の巻物が蒼穹を切り裂き、羅刹地の彼方に現れた。墨色の上古梵字が天界に現れ、形を成し、長く消えることはなかった。

「謹んで神君の御旨に従います。」

羅刹地上空に、一糸乱れぬ声が響き渡った。天帝(てんてい)、天后、妖皇は一歩下がり、恭しく礼をした。仙界と妖界の両族は地に膝をついた。

皆、伏せた目に驚きを隠せない。上古真神がこのような罰を下すとは、誰も予想していなかった。

弑神花に倒された妖兵の魂魄は、ほとんどが三界に散らばり、運が良ければ数百年で輪廻転生できる。しかし運が悪ければ、魂飛魄散し、永遠に転生できない可能性もある。そうなれば、青漓の刑罰は、無為に死んだ妖兵の縁によって決まることになり、不公平とは言えない。

しかし、地獄の底は永遠に燃え盛る炎と万世の闇に包まれた、この世で最も凶悪で孤独な場所である。

青漓は顔面蒼白になり、数歩後ずさりして地面に倒れ込んだ。目には恐怖が満ちていた。上古は雲の上に高く立ち、まるで神のように淡々とした表情で、彼女を蟻んこのように見ていた。

満座の仙妖は、誰一人として言葉を出すことができなかった。先程まで傲慢な態度だった天后でさえ、顔色を変え、唇をぎゅっと結んでいた。

彼女は身を縮こませて後ずさりし、指先が何かに触れた。振り返ると、常沁(じょうしん)だけが眉をひそめて彼女を見ており、その表情には憐れみが浮かんでいた。

千年もの間、敵同士だった。もし彼女が森羽(しんう)に想いを寄せなければ、常沁(じょうしん)と常に競い合わなければ、一歩間違えれば、今のようにはなっていなかったかもしれない。

しかし…もし彼女に欲望がなければ、今頃は妖界の底辺でもがく小さな妖狐に過ぎなかっただろう。森羽(しんう)との千年の交わりも、妖界での百年の尊敬もなかっただろう。彼女は間違っていない…

青漓の目は狂気に満ち、上古を見上げた。「上古、貴様が真神であろうと何であろうと!私は貴様を呪う!いつか私と同じように、生きた心地もしない思いを味わうがいい!」

上古は彼女を冷淡に見つめ、手を振ると、黒い光柱が地獄から噴き出し、雲海を突き抜け、青漓を包み込んだ。悲痛な叫びは突然途絶えた。

皆が驚愕する中、黒い炎が彼女の顔を飲み込み、咆哮しながら雲海の下へと落ちていくのが見えた。地獄の底へと落ちていく。

羅刹地は静まり返った。

上古は周囲を見渡し、再び石座に座り、視線を落として言った。「仙界と妖界の争いは数万年にも及ぶことは知っている。私もこの争いに介入するつもりはない。しかし今日、鳳染(ほうせん)涅、この地での戦いは止めなければならない。将来、どちらが勝とうと、私は決して幹渉しないと約束する。」

冷厳な声が羅刹地上空に静かに響き渡り、皆は心を引き締め、恭しく「かしこまりました」と答えた。

青漓の末路を目の当たりにし、どんなに深い恨みがあっても、今は抑えなければならない。天帝(てんてい)や天后でさえ、このような状況で上古の逆鱗に触れることはできなかった。

炎が燃える音が仙界の門前から聞こえてきた。皆が顔を上げると、純白の炎がまるで実体化したかのように、威圧感が押し寄せてきた。天后は突然数歩後ずさりし、胸を押さえ、額に冷や汗をかいた。

玄天殿で暮光(ぼこう)は蕪浣(ぶかん)にすっかり失望していたが、息子を失ったばかりの彼女を見て、さすがに不憫に思い、慌てて彼女を支え、低い声で言った。「蕪浣(ぶかん)、どうしたのだ?」

「鳳染(ほうせん)涅…」蕪浣(ぶかん)は灰白色の火の玉を呆然と見つめ、目は虚ろだった。「鳳凰が降臨した…」