『上古』 第80話:「暴露」

玄天殿の中、天后(てんこう)は数歩先に立つ天帝(てんてい)を眺め、顔色を変えた。

明啓は、彼女が上古(じょうこ)の前で後池(こうち)のことを口にしなければ、過去の出来事を明かすことはないと約束していたはずだ。暮光(ぼこう)は……一体何を、どのようにして知ったのだろうか?

「暮光(ぼこう)、どういう意味ですか? 上古(じょうこ)が世を救うために自らを犠牲にしたことは上古(じょうこ)界の誰もが知っています。この件に私に何の関係があるのですか?」天后(てんこう)は眉をひそめ、冷たく言い放った。

天帝(てんてい)の瞳には深い失望と怒りが浮かび上がった。彼は天后(てんこう)の手首を掴み、厳しい声で言った。「関係ない? かつて天啓(てんけい)真神を説得するために下界へ行った月弥(げつび)、簡莘…十数名の上神が一人も戻ってこなかったことも、お前には関係ないというのか!」

天后(てんこう)の目に動揺の色が走り、顔色が蒼白になった。「暮光(ぼこう)!」と鋭く叫んだ。彼の瞳が黒く沈み、怒りに満ちているのを見て、彼女は深呼吸をし、少しだけ態度を和らげ、低い声で言った。「暮光(ぼこう)、自分が何を言っているか分かっていますか? あの時、天啓(てんけい)真神は下界に滅世の血陣を築き、月弥(げつび)上神たちは上古(じょうこ)真神に遣わされて天啓(てんけい)神君を説得しに行ったのです。私はただ同行しただけで、誤って血陣の霊眼に入ってしまったがために、このような惨事が起こったのです。それに、あの時私は神力のほとんどを失い、上古(じょうこ)真神が混沌の力を使って三日三晩かけて私を救ってくれたのです。どうしてこのことを私のせいにするのですか!」

六万年以上前、あまりにも長い時を生きたためか、永遠の命を持つ真神の一人、天啓(てんけい)は祖神を超え、天と比肩する力を欲するようになり、下界に滅世の血陣を築いた。三界の仙、妖、人の霊脈を使って、擎天祖神が下界に残した混沌の力を精錬し、前人未到の第二の創世神になろうとしたのだ。このことが上古(じょうこ)界の神々に知られた時には、既に手遅れだった。しかし、数千万年の付き合いの中で、上古(じょうこ)、炙陽(せきよう)、白玦(はくけつ)の三人の真神は天啓(てんけい)真神がこのようなことをするとは信じられず、月弥(げつび)をはじめとする数十人の神君を下界へ派遣し、天啓(てんけい)真神を説得させようとした……しかし、最後に戻ってきたのは、瀕死の状態で上古(じょうこ)界の門前で倒れていた蕪浣(ぶかん)……そして、滅世の血の呪いによって引き起こされた混沌の劫だけだった。

数十名の上神が下界で無残に命を落とし、遺体すら残らなかった。これは祖神が天地を創造して以来、かつてない出来事だった……

暮光(ぼこう)ははっきりと覚えている。あの日、乾坤台から月弥(げつび)上神の位牌が消えたのを見た上古(じょうこ)神君の、自責と茫然自失に満ちた表情を。

だからこそ、彼女は自らの本源の力を使い、不眠不休で蕪浣(ぶかん)を救ったのだ。彼女が罪悪感に苛まれ、自分のせいで蕪浣(ぶかん)が神力を失い、下界で共に命を落とすところだったと思い込んでいたからだ。

後古界が開かれ、すべての歴史は上古(じょうこ)界と共に封印され、今の仙君や妖魔は、かつて三界を滅ぼしかけた混沌の劫が、実は天啓(てんけい)真神が三界を滅ぼそうとして引き起こしたものだったことを知らない。

しかし、もし……これが全ての真実ではなかったとしたら?

もし月弥(げつび)上神たちが天啓(てんけい)真神の手で死んだのではなく、上古(じょうこ)真神はあの時……

彼はあの者の言葉を信じたくはなかった。しかし、自問自答してみても、この六万年、本当にあの時の出来事を疑ったことがなかったのだろうか?

暮光(ぼこう)は乾いた目を閉じ、この半月、何度も何度も自問自答したが、答えは見つからなかった。

万年に及ぶ教え、月弥(げつび)は彼にとって師のような存在であり、上古(じょうこ)には再造の恩があった……

「蕪浣(ぶかん)、あの時、上古真神は月弥(げつび)上神たちだけを下界へ派遣した。私が知る限り、お前は自ら同行することを望んだはずだ。」

「あの時、私は上古に寵愛され、天啓(てんけい)とも親しかったことは上古界の誰もが知っています。私はただ力になりたいと思っただけなのに、暮光(ぼこう)、そんなことで私を責めるなんて、ひどすぎませんか!」蕪浣(ぶかん)は冷笑し、顔が青ざめた。

「私は聞いた。」暮光(ぼこう)は突然目を開き、闇い表情で蕪浣(ぶかん)を睨みつけ、一字一句言い放った。

「何を言っているのですか……何を聞いたというのですか?」蕪浣(ぶかん)は顔を上げ、指先が急に縮こまった。

「お前が朝聖殿の外で月弥(げつび)上神を呼び止め、『天啓(てんけい)真神が下界に隠れている場所を知っている……』と言ったのを。」蕪浣(ぶかん)の血の気が引いた顔を見ながら、暮光(ぼこう)の瞳に乾いた嘲りが浮かんだ。「知らなかっただろうが、私はあの頃からずっとお前に想いを寄せていた。お前が朝聖殿に戻ると、こっそり後をつけて、お前が何が好きかを見て、密かに覚えていたのだ。まさか、こんな言葉を聞くことになるとは思わなかった。お前が神力を失い、上古界の門前で倒れていた時、私はお前を疑うことなど考えもせず、ただ心配していただけだった。」

「蕪浣(ぶかん)、お前は関係ないと言うが、それでは教えてくれ。あの時、お前が案内役だった。たとえ場所を間違えたとしても、最初に血陣に入ったはずのお前がなぜ生き延びることができた? 月弥(げつび)上神はお前の神力より数十倍も強かったのに、なぜ遺体すら残らなかった!」

問い詰める声が響き渡り、蕪浣(ぶかん)は後ずさりし、言葉を失った。

あの時の光景が、どうしてこんなにも都合よく…暮光(ぼこう)に見られていたなんて!

「お前があらかじめ、彼らが入った場所が血陣の霊眼だと知っていて、先に身を隠していたとしか考えられない。」暮光(ぼこう)は蕪浣(ぶかん)を引き止め、これ以上後ずさりさせなかった。

信頼していた者に突き落とされた絶望の中、月弥(げつび)上神は最期に何を思ったのだろうか?

あんなに明るく豪快だった月弥(げつび)上神、彼が尊敬し憧れていた人が、こんな結末を迎えるなんて。

そして、这一切を引き起こした者を、彼は六万年もの間、寵愛し、信じ、愛していたのだ!

暮光(ぼこう)、私はなんて愚かだったんだ!

死のような静寂の中、怒りに満ちた荒い息遣いだけが響き、大殿全体が息詰まるようだった。

しばらくして、蕪浣(ぶかん)はゆっくりと目を開き、暮光(ぼこう)に掴まれた手首を振りほどき、唇をわずかに動かした。「それで?」

彼女の冷淡な目に触れ、暮光(ぼこう)の心は深く沈んだ。

「それで、とは?」

「もしあなたの言う通り、私が彼らを陣眼に導いたとしたら、あなたはどうするのですか?」

「三界の公理正義のために、私を青龍台へ送る……それとも、かつての教えへの恩義のために、私を自ら殺すのですか?」

暮光(ぼこう)は何も言わず、腰に垂らした手を強く握りしめ、信じられないという様子で蕪浣(ぶかん)を見つめ、荒い息を繰り返した。

蕪浣(ぶかん)は後ずさりするのをやめ、逆に前に出てきて、冷酷な光を瞳に宿した。「暮光(ぼこう)、私はあなたの妻です。六万年以上もあなたのそばにいて、あなたのために子供を産み育てました。それでも、数万年前に死んだ者たちには及ばないのですか?」

「なぜこんなことをしたんだ? 彼らは皆、お前を可愛がっていた……特に上古真神は。どうして彼女の親友を自ら殺し、彼女を自責の念に駆り立て、自らを犠牲にさせるようなことができたんだ!」

暮光(ぼこう)は顔面蒼白になり、唇さえも怒りで震えていた。

「彼女のことは口にするな!」蕪浣(ぶかん)は甲高い声で叫んだ。「彼らは私を可愛がってくれた?違う!上古が重んじていた私を可愛がっていただけだ!上古界の古参の上神たち、そして上古自身、私たちのような小神を決して見下していないように見えて、実際は蔑んでいる。景昭(けいしょう)を見てみろ。白玦(はくけつ)に見捨てられ、どれほど惨めな姿になったか。大沢山にいた時、上古は私に少しでも面子を立ててくれたか?暮光(ぼこう)、愚かになるな。彼らがいる限り、私たちは何もない。天帝(てんてい)?天后(てんこう)?ただの笑い話に過ぎない!」

激しい憤慨を見せる蕪浣(ぶかん)に、暮光(ぼこう)の心は悲涼感で満ちていた。蕪浣(ぶかん)よ、一体知っているのか?白玦(はくけつ)神君が景昭(けいしょう)にあんな仕打ちをしたのは、ただ…お前がかつて犯した過ちのせいだということを!これもまた、彼が妖界に手を貸すことを選んだ真の理由だった。

暮光(ぼこう)は静かに蕪浣(ぶかん)を見つめ、唇を動かしたが、言葉は出なかった。

蕪浣(ぶかん)は彼の手を掴み、狂おしい表情で言った。「暮光(ぼこう)、聞いて。仙妖の戦乱さえあれば、私たちにチャンスが生まれる。全てはまだ決まっていない。私たちは負けない。」

「何をしようとしているんだ?」暮光(ぼこう)はようやく我に返り、蕪浣(ぶかん)の手を掴み返した。「蕪浣(ぶかん)、何をしたんだ?」

白玦(はくけつ)真神はただ、上古真神に過去の出来事を気づかれたくないがために、蕪浣(ぶかん)を一時的に見逃しただけなのだ。もし蕪浣(ぶかん)がまた何かをやらかしたら、白玦(はくけつ)だけでなく、天啓(てんけい)も彼女を許さないだろう!

「半日前に私が御旨を下し、擎天柱に駐屯する十万の仙将に妖界への強攻を命じた。今頃はもう三重天を陥落させているはずだ。」

「十万の仙将だと?蕪浣(ぶかん)、正気を失ったのか!そんなことをすれば、仙妖両族に和解の道は永遠に閉ざされる!」暮光(ぼこう)の顔色は大きく変わった。十万の仙将は仙界の戦力の三分の一に相当する。どうして軽々しく妖界に侵入させることができたのか?この半月、彼は過去の出来事を思い出すことにばかり気を取られ、玄天殿に閉じこもっていた。蕪浣がこのような狂気の沙汰を起こすとは、思いもよらなかった。

蕪浣は少し目を見開き、冷たく言った。「妖界には上神もいない。どうして私たちの敵になり得るというのだ…」

彼女の言葉が終わらないうちに、慌ただしい足音が玄天殿の外で響いた。天門を守備する仙将が、驚慌失措の表情で駆け込んできた。

「陛下!陛下!」

「何事だ!この無様な姿は!」蕪浣は振り返り、怒鳴りつけた。

「天后(てんこう)陛下!鳳崎上君からたった今、知らせが届きました。今朝、妖界に攻め入った十万の仙将が…三重天で九幽妖陣に閉じ込められたと…」

天帝(てんてい)と天后(てんこう)の顔に驚きが現れた。九幽大陣は上古の妖陣であり、上神の力なくしては築くことはできない。どうして妖界にこれほどの威力を持つ大陣があるというのか?

「どうなった?その十万の仙将はどうなったのだ?」天帝(てんてい)は数歩進み出て、重々しい声で尋ねた。心に漠然とした不安がよぎった。もし妖界に本当に上神の力で築かれた大陣があるとすれば、討伐に向かった仙将たちは…

「玉石、長鉄、鳳泉…数十名の上君が兵解の術を用いて大陣の一角を破り、仙将たちの脱出を助けたとのことです。擎天柱に帰還できた仙将は…わずか五千に過ぎません。」

「ドーン…」玄天殿内の金紋柱に埋め込まれた夜明珠が一瞬にして粉々に砕け散り、堅固な玉石の床に恐ろしい亀裂が入った。天帝(てんてい)の顔色は極限まで悪化し、天后(てんこう)の方へと振り返った。

「妖界の実情も分からずに勝手に兵を出すとは!お前は、かつて白玦(はくけつ)真神が妖界を庇護すると言った言葉が、本当にただの言葉だと思っていたのか!玉石、長鉄、鳳泉…彼らは我が仙界の柱石だ…そして九万五千もの仙界将士の命!蕪浣、この代償をどうやって償うつもりだ!」

天帝(てんてい)は悲憤の声を上げ、顔は一瞬にして老いたように見え、まるで夕暮れ時の雄獅子のようだった。

天后(てんこう)は数歩後ずさりし、いまだに信じられないという茫然とした表情で言った。「そんなはずはない。上古がいるのに、白玦(はくけつ)が仙界将士に手出しするはずがない。どうして妖界にそんな大陣を築くことができるというのだ…」

「聞いていなかったのか?あれは妖陣だ。妖族から昇格した上神にしかできないことだ!白玦(はくけつ)は仙将に手出しはしないだろうが、彼の真神の能力をもってすれば、妖族に上神一人くらい造り出すことは造作もないことではないか?忘れるな。かつて、お前が上神の位に昇格できたのも、上古真神の助力があったからだ!」

怒号が殿内に響き渡った。天后(てんこう)は天帝(てんてい)を見て、冷然とした視線を向けた。「たとえ白玦(はくけつ)の助けがあったとしても、半神の力が必要だ。忘れるな。かつて、森簡(しんかん)でさえそのような力は持っていなかった…」

「朕の御旨を伝えよ。金曜上君に五万の仙将を率いさせ、速やかに擎天柱に向かい、仙界の門を守らせろ。」天帝(てんてい)は答えず、殿内の仙将に命じた。

「はっ!陛下。」跪いていた仙将は命令を受け、殿内から姿を消した。

天帝(てんてい)は疲れた様子で天后(てんこう)を一瞥し、玄天殿の外へと飛び立った。殿を出た途端、極西の地から闇紅色の光が放たれ、九重天宮を突き破り、三界を威圧した。それと交錯するように、かすかな銀色の神力も感じられた。

「あれは上神の妖力…妖族に本当に上神が誕生したのだ!」慌てて殿内から飛び出してきた天后(てんこう)は、その光景を見て、目を大きく見開き、呟いた。

「違う!あそこは羅刹地だ!羅刹地よ!」突然、天后は我に返り、慌てて天帝(てんてい)の方を見た。「暮光(ぼこう)!景澗(けいかん)が羅刹地にいるわ!」

二人は顔を見合わせ、両者ともに動揺の色が見えた。景澗(けいかん)が羅刹地に居るという理由だけでなく、仙界はすでに三重天で数十万の仙将を失っている。もし羅刹地の仙界の門も妖族に占領されてしまえば、仙界は後古界が開かれて以来の最大の危機に陥ることになる。

二人は心の不安を抑え込み、先ほどの口論を水に流すかのように、躊躇なく極西の羅刹地へと向かった。

羅刹地の黒雲沼沢の上。

森鴻は、景澗(けいかん)と最後の数百名の仙将を必死に守る鳳染(ほうせん)を見て、険しい顔をしていた。

鳳染(ほうせん)は一介の上君に過ぎないのに、どうしてこれほど長く自分に抗うことができるのか。さらに厄介なことに、彼女に手荒な真価はできないのだ。

「鳳染(ほうせん)、上古真神はかつて、清池宮は仙妖の争いに一切介入しないと仰せになった。お前がこのようなことをすれば、上古真神に約束を破らせ、板挟みにすることになるぞ!手を止めれば、羅刹地から解放してやる。一切傷つけることはない!」森鴻がこう言うと、鳳染(ほうせん)の頭上の赤紅の戟が実体化し、妖力はさらに増した。

鳳染(ほうせん)は顔面蒼白になり、口元からわずかに血が滲み出ていた。両掌の間の銀色の神力は崩壊寸前で、明らかに限界に達していた。上古が残した神力がなければ、とっくに持ちこたえられなかっただろう。

「森鴻、余計なことは言うな。私は一度手を出したら、もう退くことはない。」

「鳳染(ほうせん)…!」景澗(けいかん)は片手で剣を握りしめ、焦燥の色を浮かべ、鳳染(ほうせん)が光の幕で守護する数百名の仙将を見つめ、言葉を失った。

「本当に愚か者だな、鳳染(ほうせん)。お前は天宮と敵対しているというのに、何故今になって彼らを守ろうとするのだ!」妖皇は袖を払い、怒鳴りつけた。

「私と敵対しているのは景陽(けいよう)であって、他の者とは関係ない。私は鳳染(ほうせん)、万年生きても、他者に怒りをぶつける道理などない。」鳳染(ほうせん)は視線を上げ、声が羅刹地上空に響き渡った。「これらの仙将が、貴様の妖兵の包囲攻撃で死ぬのを見過ごすことなど、私にはできない!」

虚空に佇む女神君は、燃えるように赤い長袍を身に纏い、黒髪をなびかせ、眉間には揺るぎない決意が宿っていた。森鴻は眉根を深く寄せ、鳳染(ほうせん)の性格を知っているだけに、一時身動きが取れなくなってしまった。

「陛下、妖族は仙族に数万年もの間虐げられ、幾度となく妖界に攻め込まれ、戦死した将士は数えきれません。先代の妖皇でさえ、天帝(てんてい)の手にかかって亡くなりました。陛下、我らは仙界と深い恨みがあります。数十万の将士の心を冷めさせてはなりません!」青漓は、妖皇にためらいの色が見えたので、地に跪き、切々と訴えた。

多くの妖族の将士たちの目にも悲憤の色が浮かび、妖皇を見つめる瞳には期待が込められていた。

妖皇は深呼吸をし、鳳染(ほうせん)を深く見つめた後、再び顔を上げると、目には毅然とした決意が満ちていた。闇紅色の神力が彼の全身から広がり、巨大な球体となって鳳染へと押し寄せた。

『カチャッ』という鋭い音が響き、鳳染の頭上の銀色の光の幕が砕け散った。千鈞一髪の瞬間、鳳染は長鞭を振るい、森鴻の長戟に絡め取ると、自らの身を盾にして押し寄せる妖力を受け止め、全力で景澗(けいかん)と数百名の仙界の将士を仙界の門へと投げ飛ばした。

白い光が突如として輝き、景澗(けいかん)が血を以て陣を起動させ、仙界の門の前に天帝が設置した大陣がついに起動した。景澗(けいかん)と最後の数百名の仙将の命は守られたが、鳳染は森鴻の長戟によって仙力を破られ、戦力を失い、妖力の幕に囚われてしまった。

厚い仙障を隔てて、両軍は再び羅刹地上空で対峙した。

鳳染は景澗(けいかん)を見て、大きく息を吐いた。天帝の陣の守護があれば、少なくともしばらくは持ちこたえられるだろう。

青漓はこの光景を見て、目を伏せた。鳳染には上古の真神の加護があるため、妖皇は彼女を傷つけないだろう。羅刹地の戦況は長くは隠せない。もし天帝と天后が到著すれば、全ての計画は水泡に帰してしまう。妖族の数万年の努力と希望が…。

「景澗(けいかん)、貴様は仙界の皇子だというのに、女に守ってもらうとは、笑止千万!」森鴻は低い声で怒鳴りつけ、鳳染を宙に弔るしながら、仙障の中の景澗(けいかん)を軽蔑の眼差しで見下ろした。

彼でさえ、天帝が設置した仙障を破るには莫大な神力を消費しなければならない。しかし、鳳染が自ら捕らえられることを選んでまで景澗(けいかん)を守ろうとしたとは、予想外だった。

仙障の中で、景澗(けいかん)は唇を噛み締め、血が腕から流れ落ち、仙剣に沿って地面に滴り落ちた。

妖皇の言葉が耳に届き、耳障りで冷酷だった。彼は荒い息を吐き、外へ飛び出そうとする目を赤くした仙将たちを押し留めた。「羅刹地にはお前たちしか残っていない。お前たちまで死んでしまったら、誰がここを守るのだ?お前たちは仙界全体を羅刹地のようにしたいのか!」

先ほど、もしこの数百名の仙将がいなければ、彼は鳳染を一人で森鴻に立ち向かわせることはしなかっただろう。

父神の仙障は彼の血の力で起動する。もし彼も死んでしまえば、仙界の門は必ず開き、九天洞府は、もはや森鴻の侵略を止めることはできないだろう。

彼は振り返り、数メートル先の鳳染を見つめた。瞳の奥は漆黒に染まっていた。

不屈の瞳、鋭く傲慢な鳳眼、数千年もの間、まるで変わっていないようだ。

鳳染、お前は二度も私を救ってくれた。私、景澗(けいかん)は、お前に二つの命を借りている。

「景澗(けいかん)、仙界の門を守り、仙障から出るな。さもなくば、ここで戦死した数万の将士に、そして血と化してしまった眠修上君に、どのように顔向けするのだ!」怒号が空から響き渡った。鳳染は片膝をついて地に伏し、顔色は蒼白だったが、その瞳は銀河のように輝いていた。

景澗(けいかん)は沈黙して仙障の中に立ち、視線を雲海越しに、空中に浮かぶ赤い長袍を纏った鳳染へと向けた。全身が耐えきれずに震えているようだった。

羅刹地は死のような静寂に包まれた。妖皇は神力を仙界の門前の仙障に叩きつけたが、仙障はびくともしなかった。妖皇の目にも陰りが差した。どうやらこの仙障を破るには、一時では難しいようだ。このまま膠著状態が続けば…。

周囲を守る妖兵たちもこの雰囲気に感染し、不安な気持ちが徐々に広がっていった。

「景澗(けいかん)、出てこなければ、鳳染がお前の目の前で死ぬのを見せつけてやる!」

青漓は空を見上げ、歯を食いしばると、突然立ち上がり空へと飛び立った。彼女の袖から黒い箱が空中に放たれ、炸裂すると、十数輪の紫黒色の光沢を放つ花が空中に現れ、丈ほどに大きくなり、鋭い牙と歯をむき出し、陰惨で恐ろしい姿で咆哮した。

「弑神花!」

「青漓、やめろ!」森鴻は顔色を変え、怒鳴った。

多くの妖兵も恐怖に慄き、後ずさりした。

鬼蜮の底には、仙魔を食らう花が咲いているという伝説がある。全身が紫黒色で、数丈の大きさがあり、三界の中で、上神以下、仙君と妖君でなければ、彼らに敵う者はいない。そのため、弑神花と呼ばれている。しかし、彼らは煉獄の底に封印されており、これまで三界に現れたことはなかった。

弑神花には知性はなく、ただ残忍な戾気だけがあり、仙妖の霊力を嗅ぎつけて無差別に攻撃するだけだ。彼らは半分は鳳染に、半分は青漓の製御を離れ、なんと近くの妖界の将士たちへと襲いかかった。

あっという間に数百名の妖兵が弑神花の口の中に消え、悲鳴が次々と上がった。青漓は顔面蒼白になり、この光景を見て、言いようのない恐怖と後悔の念に駆られた。

妖皇は目を閉じ、遠くの鳳染に視線を向けると、妖兵を攻撃する弑神花へと向かった。

彼は帝であり、いかなる時も、彼は自分の民を見捨てることはできない。

森鴻がどんなに迅速に動いても、鳳染を救うために手が空いた時には、すでに遅かった。

空中に漂う血の匂いの中、人々は、数輪の弑神花が鳳染を完全に包囲し、大きな口を開けて彼女を飲み込もうとするのを見ただけだった。

一面に広がる濃い霧の中、鳳染は血に染まった雲海越しに、最後に見ることができたのは、ただ一対の漆黒の、断固とした瞳だけだった。