『上古』 第60話:「絶(下)」

紫光と金光が空中で対峙し、互いに一歩も譲らない。天啓(てんけい)は手を開くと、神力によって消滅させられた炎の灰燼が宙で虚無へと変わった。

「白玦(はくけつ)、今となってはおお前の事に口出しする資格がないとでも言うのか?」

鳳眼を少し弔り上げ、紫の袍を纏った天啓(てんけい)は空中に浮かび、冷淡な表情で微動だにしない白玦(はくけつ)を見つめた。その瞳には紫の光が揺らめき、魅惑的な輝きを放っていた。

「言ったはずだ、誰であろうと同じだと」白玦(はくけつ)は冷たく天啓(てんけい)を一瞥すると、視線を少し移し、彼の背後にいる古君(こくん)に言った。「古君(こくん)、今日は天啓(てんけい)がお前を守っている、行け」

そう言うと、彼は景昭(けいしょう)の方へと向き直った。

先程まで容赦なかった白玦(はくけつ)が簡単に諦めるとは思っていなかった天啓(てんけい)は、一瞬呆然とした。すぐに理解すると、表情は苛立ちに変わった。白玦(はくけつ)は最初から古君(こくん)を殺すつもりなどなく、ただ自分が完全に覚醒するよう仕向けるために、自分を手出しさせようとしていただけだったのだ。

ただ、白玦(はくけつ)は自分が本源の力を紫月に変化させて覚醒したことで妖界に損害を与え、ここの妖君を癒すために神力を使ったことを予想していなかった。

「古君(こくん)、行こう」白玦(はくけつ)に策略にはめられたことを悟った天啓(てんけい)は、やり場のない怒りを抱え、闇い顔で古君(こくん)に言った。

蒼白い顔の古君(こくん)は首を振り、天啓(てんけい)の背後から出てくると、景昭(けいしょう)へと向かう白玦(はくけつ)を見て、低い声で言った。「白玦(はくけつ)真神、古君(こくん)の技量が及ばないのは事実です。しかし、もしあなたがこの婚礼を執り行うつもりならば…私が死ぬしかありません」

前進する白玦(はくけつ)の足取りは、突然止まった。彼はその場に立ち尽くし、目を閉じ、腰に垂らした手を軽く握り合わせた。

誰もが、その冷徹な顔にどんな表情が浮かんでいるのか分からなかった。ただ景昭(けいしょう)だけが、白玦(はくけつ)が目を伏せた瞬間、顔色を蒼白に変えた。

朗々とした声が天に響き渡り、人々は驚きを隠せない様子で、宙に浮かび真剣な面持ちの古君(こくん)上神を見つめ、深い疑問を抱いた。天啓(てんけい)真神が妖界の半分の妖力を覚醒させるという代償を払ってまで白玦(はくけつ)真神を止めさせ、この件をこれ以上追求しないようにさせたというのに、百年前に交わされたただの約束のために、古君(こくん)上神はなぜここまでこだわるのだろうか?たとえ追放された小神君のためだとしても、やりすぎではないか!

「古君(こくん)、自分が何を言っているのか分かっているのか?」天啓(てんけい)は古君(こくん)を睨みつけ、いら立ちを隠せない様子で言った。

「天啓(てんけい)真神、先程はお助けいただきありがとうございました。しかし、これは清池宮の問題です。どのような結果になろうとも、古君(こくん)が全ての責任を負います」古君は天啓(てんけい)に低い声で言うと、遠くの白玦をじっと見つめ、手に銀の輝きを浮かび上がらせ、金石巨輪を再びその手に現した。

何が何でも、たとえ死んでも、彼はこの婚礼を阻止するつもりだった。

もし万年前の後悔がすでに定められているのなら、万年後の今、たとえ天に逆らおうとも、彼は一歩も引くわけにはいかなかった。

「古君、最後に一度だけ機会を与える。お前の清池宮へ戻れ。既往は咎めない」白玦は振り返り、固く閉じていた目を開いて古君を見つめ、淡々とした声で言った。

「いけません。百年前の青龍台で、私は清穆(せいぼく)に後池(こうち)を嫁がせると約束しました。白玦真神、あなたは清穆(せいぼく)ではない。なぜ彼の代わりに決めるのですか」

「お前…」白玦の目に一瞬の怒りが閃き、手を振ると、炙陽(せきよう)槍が彼の掌中に現れた。

「私はこの人生で、最も後悔していることは百年前彼に同意しなかったことです。白玦真神、清穆(せいぼく)は千年の時しか生きていませんでしたが、人生における出会いや別れ、是非曲直は、あなたに決められるものではありません。もしあなたが彼ならば、百年間待ち続けて、やっと約束した相手が戻ってきたのに、互いに分からなくなっているなど、どうして耐えられるのですか」

「もし私が彼ではないとしたら?」幽かな声が響き渡り、白玦は一歩一歩古君へと近づいていった。

「もしあなたが彼ではないのなら、私はこの滅天輪で彼を呼び出すまで諦めません」

古君の言葉が終わると同時に、彼は額から手を滑らせ、天眼を開き、それを手にかざした。滅天輪の銀の光は大きく増し、白玦へと向かっていった。そして、滅天輪が手から離れた瞬間、彼の顔色は蒼白になった。

幾重にも重なった霊力が大きな網となり、白玦をぐるりと囲んだ。白玦は緊張した面持ちで、背に回した手をゆっくりと握りしめ、しばらくして銀の海の中の古君を見つめ、目を閉じた。

古君、ある事柄は、お前が望んだからといって、取り戻せるものではない。彼と後池(こうち)のように、彼が擎天柱の下で覚醒した瞬間から、すでに終わっていたのだ。

白玦はゆっくりと手を上げ、炙陽(せきよう)槍は重々しい音を鳴らし、まるで意思を持っているかのように彼の掌中で動き回った。

「行け」

低い声が響き渡ると、炙陽(せきよう)槍の金色に輝く神力と赤紅の妖光が交錯し、炎のように赤い火の流れは血龍の姿へと変わり、銀の網の束縛を切り裂き、まっすぐ古君へと向かっていった。

滅天輪は血龍の咆哮の下で少しずつ砕け散り、最後には灰となって消え、銀の海は急激に水位を下げ、ゆっくりと消えていった。

「白玦、やめろ!」

天啓(てんけい)は表情をこわばらせ、眉根を寄せ、今にも前に出ようとしたが、赤紅の三首の火龍が丈ほどに大きくなり、彼の前に立ちはだかった。

「どけ!」天啓(てんけい)は怒鳴り、三首の火龍に掌底を食らわせた。火龍は一声咆哮を上げると、広場に吹き飛ばされ、数回転がった後、目を閉じて死んだふりを始めた。

ほんのわずかな時間のうちに、炙陽(せきよう)槍はすでに古君の目の前に迫っていた。古君は蛟の姿に変わり、天に巻きついたが、この天地を破壊するほどの攻撃を止めることはできず、轟音とともに炙陽(せきよう)槍は龍の体を貫通した。

「うお…」

巨大な龍の体は宙で翻騰し、鮮血が天を染め、雲海は一瞬にして赤い綢緞のように変わり、全ての人々の視界を遮った。

炙陽(せきよう)槍は宙でしばらく静止した後、白玦の手元に戻り、静かに動かなくなった。

天啓(てんけい)は闇い顔で空中の巨大な龍へと飛んで行こうとしたが、天を揺るがす叫び声に足を止めた。

「父神!」

遠くの空の彼方から銀の光が走り、黒い人影が突然蒼穹の境に現れ、空中の蛟の龍へと向かっていった。

「後池(こうち)」下座に座っていた鳳染(ほうせん)は驚き、低い声で呟いた。古君が現れた瞬間から、彼女は後池(こうち)が古君に無理やり崑崙山に留め置かれていることを知っていた。あの老人はきっと彼女を今日の争いに巻き込みたくなかったのだろう。まさか彼女が来るとは思わなかった。

白玦は空中の黒い影をじっと見つめ、炙陽(せきよう)槍を握る手をゆっくりと強く握りしめた。明らかに熱く燃える槍身なのに、凍えるような寒さを感じた。

彼は古君を傷つけた。しかも…後池(こうち)の目の前で。

蛟の龍も後池(こうち)に気づいたようで、人の姿に戻り、後池(こうち)へと落ちてきた。

後池(こうち)は古君上神を受け止め、目は赤く腫れ上がり、手が震え止まらなかった。

髪と髭は焼け焦げ、腹には拳ほどの大きさの傷が深く骨まで見え、血が止まらないかのように流れ出て衣を染めていた。こんな古君は、後池(こうち)が今まで見たことのないほど弱々しく、みすぼらしかった。しかし、彼女を見つめる時、老いた顔には相変わらず温かく優しい笑みが浮かんでいた。

「丫頭、またお前が来たか」深い溜息が聞こえ、言葉に詰まる後池(こうち)の姿を見ると、古君の血に染まった手が持ち上がったが、後池(こうち)の手を握ることはできなかった。後池(こうち)は急いでその手を取り、唇を噛み締めた。「父神、動かないで」

古君は唇をこわばらせながら笑った。「丫頭、私は大丈夫だ、本当に大丈夫だ、慌てるな」

古君の手は徐々に冷たくなり、後池は心が凍りつくのを感じた。彼女は慌てて振り返ると、清穆(せいぼく)が少し離れた場所に立っているのが見えた。彼女は習慣的に手を伸ばそうとしたが、彼の視線は冷酷そのものだった……

後池はハッとした。彼は清穆(せいぼく)ではない、白玦なのだ。古君に容赦なく手を出せる白玦なのだ。

「後池、古君は大事には至っていない。心配するな。炙陽(せきよう)槍は彼の根基を破壊しただけで、命までは奪っていない。数年養生すれば治る」

耳元で低い声が響いた。どこか聞き覚えのある声だった。後池が振り返ると、净淵が彼女の傍らに片膝をついて、心配そうに顔を覗き込んでいる。

後池は净淵の額にある妖しい紫月の印をじっと見つめ、遠くの擎天柱に視線を向け、かすれた声で言った。「あなたは真神天啓(てんけい)なのですか?」

まるで既に予想していたかのような確信に満ちた様子だった。

天啓(てんけい)は少し間を置いてから、ゆっくりと口を開いた。「後池、私は天啓(てんけい)であり、また净淵でもある」

お前に対してだけは、天啓(てんけい)であろうと净淵であろうと、ただの一人の男に過ぎない。

彼の眼差しに潜む深い思いに触れたように、後池は視線をそらし、低い声で言った。「父神は本当に大丈夫なのですか?」

天啓(てんけい)の眼底には、一瞬の陰りがよぎった。彼は後池の手を軽く叩き、「安心しろ、古君は無事だ。清池宮へ戻ろう……」と言いかけたが、突然言葉を詰めた。黒い袖の下から、濃い血の匂いが漂ってきた。それは古君の血ではない。彼は後池の袖をめくり、その瞬間、彼の目は鋭く険しくなった。「これはどうしたことだ?」

白い腕には、深浅様々な傷跡があり、血肉が模糊として、剣の痕だらけだった。黒い服を著ていたおかげで、裾に血が流れても全く分からなかった。彼は今になってようやく、後池の顔が青白く、瞳が黒く透き通っていることに気づいたのだ。

異変に気づいた古君は眉をひそめ、起き上がろうとしたが、傷に響いてまた血が流れ出した。「丫頭、どうしたのだ?」

後池は急いで手首を隠して言った。「父神、私は大丈夫です。天啓(てんけい)真神、父神をどうか見ていてください」天啓(てんけい)の問いかけをまるで聞いていないかのように、後池は立ち上がり、遠くの白玦の方を見た。

真紅の婚礼衣装、冷酷な顔。彼は冷ややかに彼女を見つめ、そこには一片の感情もなかった。

景昭(けいしょう)が彼の後ろに立っていた。美しい顔立ち、華やかで上品な様子。絵に描いたような美男美女のカップルだった。

淵嶺沼沢で、百年前に三首火龍(さんしゅか りゅう)に追われた時、彼は命がけで彼女を外に逃がし、最後は龍息の苦しみを受けた。

蒼穹之境で、百年後、彼は景昭(けいしょう)と結婚しようとしている。彼女には目もくれず、父神を容赦なく追い詰めている。

同じ顔、同じ体なのに……後池、彼らは別人なのだ。

お前は約束を果たしに来たが、お前と約束した者はもういない。

「白玦真神、私の父神が今日の婚礼を邪魔したのは、全て私のためです。もし真神がお許しくださるなら、私は景昭(けいしょう)公主にお詫びをしたい。ただ、白玦真神が私の父神の無礼をお許しくださるよう、お願いいたします」

後池は白玦の近くに歩み寄り、背筋を伸ばして彼を見つめ、頭を上げて、一言一言、蒼穹之境の空に響き渡る声で言った。血に染まった手は、刺繍の袖の中で固く握りしめられていた。

「後池!」天啓(てんけい)はその場で朗々と声を上げる後池の姿を呆然と見つめ、怒りのあまり、かすかに体が震えているのが分かった。

彼女がどうして、取るに足らない景昭(けいしょう)に頭を下げるなどということがあろうか!どうして!

「丫頭……」古君も同様に呆然とし、震える手で目を覆い、もう黒い姿を見ないようにした。

彼の後池、天にも届くほど高い誌を持った後池、かつて天帝(てんてい)天后(てんこう)に頭を下げるくらいなら神位を削って天に追放されることを選んだ後池が……今、自分のために白玦に懇願している。

白玦は炙陽(せきよう)槍を握る手が激しく震え、金色の瞳には死のような静けさが漂っていた。

「古君は私に無礼を働き、私の槍も受けている。これでこの件は終わりにしよう」

「白玦真神の寛大なご処置に感謝いたします」

後池は口を開き、墨色の瞳は冷淡で静かだった。白玦はその視線を避け、わずかに目をそらした。

「それほどのことではない、後池神君、お気になさらずに」

白玦の眼底に狼狽と戸惑いを見た後池は、振り返ろうとした体を硬直させた。彼女は一歩一歩前に進み、白玦から一メートルのところで立ち止まり、じっと彼を見つめた。瞳の色は極限まで透き通っていた。「真神、本日はご結婚おめでとうございます。後池は急いで参りましたので、真神のご寛容に感謝し、後池は百年の約束を解き、白玦真神と景昭(けいしょう)公主の末永いお幸せをお祈りいたします」

白玦は硬直したまま彼女を見つめ、後池がゆっくりと近づいてくる勢いに押されて、一歩後ずさりしそうになった。その眼底には期待と喜びがはっきりと見て取れた。

後池は顔を上げ、非常に小さく低い声で言った。「白玦真神、後池の贈り物を受け取っていただけますか?」

清穆(せいぼく)、もしあなたが、もしあなたに事情があるのなら……

白玦の後ろで、景昭(けいしょう)の手はゆっくりと握りしめられ、青白い跡が浮かび上がった。

「後池仙君がそれほどまでに物分かりの良い方なら……白玦、感謝する」

張り詰めた空気の中、冷淡で礼儀正しい声が最後の期待を打ち砕いたようだった。後池は急に指先を固く握りしめ、手首の傷が極限まで痛み、骨まで冷えるのを感じた。彼女は頭を下げ、苦笑するように、また自嘲するように、古君の方へ向き直った。

「待て」

背後から冷たい声が聞こえた。後池は足を止め、振り返らずに言った。「真神、まだ何かご用でしょうか?」

「後池、聚霊珠、鎮魂塔、聚妖幡を渡せ」

「何ですって?」後池は急に振り返った。「白玦真神、私はこの三宝を奪うべきではなかったことは分かっています。清穆(せいぼく)が擎天柱で百年もの間、妖力を使って体を維持する苦しみを受けたのも、私のせいです。でも、あと三ヶ月で柏玄(はくげん)が目覚めるのです……」

白玦が柏玄(はくげん)のことを気にしているのは、きっと清穆(せいぼく)がこの体を使って擎天柱の下で妖力を使って体を維持していたせいだろう。

「だからどうした。お前が三宝を盗んだのは事実だ。柏玄(はくげん)の生死は、私と何の関係がある?」白玦は冷淡に彼女を見つめ、冷たく手を振ると、金色の光が後池の上空を覆った。

袖の中の鎮魂塔がかすかに動き、金色の光の呼びかけに応じて空中に飛び上がった。後池はそれを止めようとしたが、金色の光に照らされて身動きが取れず、ただ鎮魂塔が白玦の掌中に落ちるのを眺めるしかなかった。

「白玦、後池を傷つけるな!」後池が捕らえられているのを見て、天啓(てんけい)は眉をひそめ、こちらへ飛んできた。

「白玦、鎮魂塔を返してください」後池は目を真っ赤にして白玦を見つめ、心に突然不安が湧き上がった。

「過去の出来事は全てこの三宝が原因だ。後池、これからは清池宮に戻り、私は過去のことは問わない。お前にと古君に安寧を返す」

白玦は静かに彼女を見つめていた。突如として燃え上がった赤紅の炎の海が、後池と駆けつけた天啓(てんけい)を隔絶した。

彼の瞳の中の金色の炎は、まるで実体を持つかのようだった。掌中の鎮魂塔は炎に包まれ、重苦しい悲鳴を上げた。氷棺は溶け、中の青白い人影は徐々にぼやけていった。

「白玦、何をしようとしているんだ!やめろ!」天啓が後池の禁製を解くと、彼女は炎の海へと駆け出そうとしたが、天啓に引き止められた。

「後池、行くでない!」天啓は眉をひそめ、紫色の光を放ったが、炎の海は微動だにしなかった。驚いた彼は慌てて後池を引き寄せた。白玦の神力は一体いつからこんなにも恐ろしいものになったのだろうか?

炎の海の向こうに立つ白玦の姿は、天を衝くように高く、静かに下界を見下ろしていた。まるで俗世から遠く離れた存在のようだった。彼の掌中の鎮魂塔は、少しずつ粉々に砕け散っていき、中の氷棺もろとも、一片も残らなかった。

後池は信じられない思いでその光景を見つめ、眼底には赤い血絲が浮かんだ。彼女は一歩後ずさりし、顔を上げた。

「白玦!三宝を盗んだのは私よ!擎天柱の下であなたを妖魔になりかけさせたのも私!できるものなら私を殺してみなさい!なぜ…なぜ柏玄(はくげん)にあんなことをするの…!」

なぜ清穆(せいぼく)を奪っただけでなく、柏玄(はくげん)までをも見逃さないの?

あと三ヶ月…彼女は隠山之巅で百年も待った…あと三ヶ月で柏玄(はくげん)は目覚めるはずだったのに…彼女は確かに…柏玄(はくげん)の気配を感じていたのに…。

天に浮かぶ白玦の瞳は冷たく、下界を見下ろしていた。瞳の中の金色の光は揺らめき、嘲りのようでもあり、無関心ようでもあった。

炎の海は燃え続け、広場の人々はもはや祝賀ムードなどなく、ただその光景を見つめていた。

天啓真神の覚醒、古君上神の重傷、そして柏玄(はくげん)仙君の急死。この婚礼はもはや度を越えており、これから何が起こるのか、想像もつかなかった。

炎の海の内外、二つの世界。

紅の長袍を纏った真神、白玦。まるで世の中のすべての運命を支配できるかのようだった。

黒い髪に玄色の衣を纏った仙君、後池。茫然自失、悲しみに暮れるその姿は、まるで取るに足らない蟻のようだった。

雲の上に浮かぶ古君は静かにその光景を見つめていた。祭壇の外で、どんなに絶望し悲しんでも、ただ陣の中にいる人が灰になっていくのを見守ることしかできなかった、あの日の光景が、まるで幻のように蘇ってきた。

巡り巡って、数万年が過ぎたというのに、あの日の光景は、今に至るまで少しも変わっていなかった。

「天啓、お前が言った通りだ。あるものは、とっくの昔に返すべきだったのだ。」

ふわりと空に声が響き、天啓は振り返った。宙に浮かぶ古君の姿を見て、彼の表情は徐々に硬直していった。

古君…まさか…そんなことを…!?

古君の体から銀色の霊光が一寸ずつ放たれ、ゆっくりと広がっていった。白玦の前の炎の海さえも、銀色の光に瞬時に飲み込まれてしまった。後池は茫然と振り返り、古君の目の中に宿る決意と、一抹の…名残惜しさを見た。

「父神…」

「後池、私はお前の父神ではない。」

古君は静かに言い、後池を見つめ、手を上げた。まるで彼女を掴もうとするかのように、そしてゆっくりと手を下ろした。

後池は呆然と古君を見つめ、まるで彼の言葉の意味が理解できないようだった。

「私はお前の父神ではない。」古君はもう一度繰り返した。彼の表情は遠くを見つめるようで、複雑で読み取ることが難しかった。「この数万年、ずっと考えていた。もしお前がただの後池で、ただ私の娘であれば、どんなによかっただろうかと。」

蒼穹之境全体が銀色の霊光に包まれ、天に向かって延々と広がっていった。まるで無限に続くかのようだった。

古君の傷は一瞬で完全に癒え、後池は呆然と彼を見つめていた。眼底の茫然とした表情は、徐々に驚きへと変わっていった。

宙に浮かぶ老いた老人は、まるで一瞬にして別人のようになっていた。

白髪は少しずつ黒髪に変わり、曲がった背筋は少しずつ伸び、しわくちゃの肌は滑らかで白く、顔立ちは端正で、輪郭は深く、瞳は海のように深く沈んでいた。ただ、あの温厚さは昔のままだった。

古来より、上神古君は温潤如玉、容姿端麗で三界に並ぶ者は少ないと言われていたが、清池宮の小神君が生まれてからは、かつて三界を統治していた頃の美しい姿を見た者は誰もいなかった。

「父神。」後池は立ち上がり、言葉も出なかった。

「後池、これが私の本来の姿だ。」

「でも、なぜ…?」

「私はただの俗人に過ぎない。もし私がこの姿でなければ、お前が私を父神と呼ぶのを、素直に受け入れることなどできなかった。」

古君は苦笑いし、一歩一歩後池へと近づいていった。銀色の光が点々と彼の体から湧き出し、後池の体へと流れ込んでいった。

「後池、三首の火竜はこの世で初めて妖から神へと変わった妖獣ではない。私が最初だ。」古君は後池のすぐそばで立ち止まり、少し苦しげな表情で言った。「私は自分の考えで上神の地位をお前に与え、三界で何の心配もなく暮らせるようにしたつもりだった。だが、地位が高ければ高いほど、束縛も大きいということを忘れていた。」

「お前が今苦しんでいるのは、すべて私の私心から生まれたものだ。私がいなければ、お前は幼い頃から夭折の苦しみを味わうこともなかっただろう。私がいなければ、お前はこの万年もの間、霊力を集めることができず、普通の仙人にも劣ることもなかっただろう。私がいなければ、この世でお前に少しでも無礼な態度をとる者などいなかっただろう。」

「後池、私が一番守りたいのはお前なのに、お前をこんな境遇に陥れたのは、私なのだ。」

「後池、擎天柱にお前の名前がないわけではない。お前はただ…まだ覚醒していないだけだ。」

静まり返った声は突然途絶え、人々は後池の上に立つ古君上神が静かに目を閉じ、長身の体を曲げ、まるで古代の神にひれ伏すかのように跪く姿を見つめていた。

「下神古君、真神に拝謁いたします。」

天帝(てんてい)と天后(てんこう)の表情は激変し、信じられない思いで宙にいる古君と後池を見つめていた。まるで何かに気づいたかのように、彼らの目には驚きが満ちていた。

銀色の霊力はまるで大海のように、瞬く間に天を埋め尽くし、雄大な気が後池に押し寄せ、彼女を包み込んだ。

この光景を見て、白玦の眼底の平静さはついに破られ、ゆっくりと驚きを表し、しばらくして落ち著きを取り戻したが、瞳の光は揺らめいていた。

彼は古君を見て、怒るべきか、嘆くべきか分からなかった。

この万年もの間、古君は彼だけでなく、天啓をも騙していた。彼は上古(じょうこ)が消滅した時に残した神力を継承しただけでなく、後池のすべての根源の力を自分の妖丹に完全に融合させていたのだ…。しかし、それは上古(じょうこ)の根源の力が消滅すれば、彼もまた…妖丹が砕け散り、灰になってしまうことを意味していた。

彼はすべてのことを計算し、後池が今世で覚醒することはないと考えていたが、彼が万年もの間探し求めていた上古(じょうこ)の根源が、古君の体内にあったとは思いもよらなかったのだ。

今、古君は魂を燃やすことで、本来後池に属する上古(じょうこ)の根源を返そうとしており、彼にはそれを止める術がなかった。

彼が後池の神になるのを止めることができないのは、数万年前、彼が上古(じょうこ)の殉世を止めることができなかったのと同じだった。

「父神…」

後池は何かを悟ったように、目に深い悲しみを浮かべ、古君へと手を伸ばしたが……掴めたのは彼の衣の端だけだった。

古君の体から銀色の霊光が薄れていき、天へと昇っていく。

古君は顔を上げ、雲海の向こうを見つめた。そこには白玦と天啓が立っており、まるで永遠の昔からそこにいるかのようだった。

この世には、きっと私よりもお前を大切に思う者がいる。だから、後池、お前は生きていくのだ。

彼はかつて上古(じょうこ)界の小さな蛟に過ぎなかったが、数奇な運命により上古(じょうこ)真神の隕落を目の当たりにした。そして、本来ならば上古(じょうこ)真神と共に三界から消滅するはずだった上古(じょうこ)の根源が、彼の体内に宿ったのだ。彼は一夜にして蛇から蛟へ、妖から神へと変化した。これはまさにこの世で最大の幸運だった。

彼が三界で数万年もの間、高い地位に就くことができたのは、すべてこのおかげだった。

そして今、彼にできることはただ一つ、この根源の力を後池に返すことだけだった。

たとえ……かつての上古(じょうこ)真神の最後の言葉に背くことになろうとも。

上古(じょうこ)は神になりたくなかった。しかし、彼女は今は後池なのだ。

碧色の姿は徐々に消えていき、顔さえもぼやけていく。古君の体から最後の霊力が消え去ると、彼は目を伏せ、声はもはや聞き取れないほど小さくなった。

銀色の光に縛られ、後池はただ古君が少しずつ消えていき、灰と化していく様を見つめることしかできなかった。

「後池、保重。」ぼんやりとした意識の中、これが彼女が聞いた古君の最後の言葉だった。

上神古君、灰飛煙滅、この世から姿を消した。

父神、あなたは私に生きていくように言った。でも、この世にあなたがいないのに、私は一人でどうやって生きていけばいいの?

全世界が闇に包まれたように感じ、骨の髄まで冷え切り、魂は砕け散った。後池はゆっくりと顔を上げ、目は血のように赤く染まっていた。

古君が完全に消え去ると同時に、後池の体の銀色の光は突然強まり、天へと昇っていった。

銀色の光の中、腰までだった長い髪は徐々に伸びて足首まで届き、深い色の古風な衣が風に舞い、銀色の錦帯が腰に巻かれ、輝かしく神秘的だった。漆黒の瞳は深く遠くを見つめ、銀白色の水紋の印が額に浮かび上がった。

振り返ると、その顔は絶世の美女であり、永遠の美しさで、この世を見下ろしていた。

広大な空は一面の銀白色に染まり、壮大な音楽が遠い昔から奏でられているようだった。四海の潮はすべて引き、九州の獣たちは静まり返り、天空には仙、妖、神がゆっくりと浮かび上がり、この広大な海に包まれていた。

天帝(てんてい)は銀色の光の中心にいる影に向かって腰を曲げ、その目には服従の色が浮かんでいた。圧倒的な霊力の威圧を受け、天后(てんこう)はゆっくりと頭を下げ、古の礼を行い、その表情には言いようのない驚きが浮かんでいた。

天空全体で、白玦と天啓だけが顔を上げて立っていることができた。

下界から轟音が響き渡り、無数の折れた剣が空間を切り裂き、突然天空に現れた。回転しながら、それらは一本の巨大な銀の剣となり、後池の前に落ちた。

後池は振り返った。十メートルほど離れたところに、白玦が冷淡な表情で立っていた。彼の手に握られた灰はまだ完全に消えていないようだった。

後池の目は血のように赤く染まっていた。彼女は巨剣を手に取り、天空の殿へと向かった。轟音と共に、天と地が滅びるほどの衝撃が走った。

音が止み、風が止んだ。

血が滴る音がひときわ鮮明に響いた。人々が顔を上げると、そこには……白玦の姿が天空の殿の前に立ちはだかり、巨剣が彼の体を貫いていた。空中で、剣は不思議なことに静止していた。

正気に戻ったように、後池はゆっくりと巨剣を引き抜いた。白玦の青白く透明な顔、深く鋭い瞳の色、そしてこの世の果てしない苦痛がそこにあった。

「私が誰であろうと、白玦、この人生で、私は死ぬまであなたを許さない。」

巨剣は体から離れ、手から振り落とされ、天を滅ぼすほどの勢いで三界へと向かった。銀色の光が流れ、全世界が突然混沌とした一片となった。

後池の顔は青白く、口からは血が流れ、目はわずかに閉じ、体は空中に浮かびながら、果てしなく続く天の階段から落ちていった。

ぼんやりとした意識の中、彼女は赤い衣をまとった男が天空に立ち、冷ややかな目で彼女を見つめているのを見た。その表情は毅然として冷たかった。

まるで神のように、この世に君臨していた。

「後池、お前が戻ってきたら、私たちは結婚しよう。」

「後池、私がお前に石の鎖を贈った理由がわかった時、それが私たちが再び会う時だ。」

「後池、保重。」

……

耳元で声が響いているようだった。一言一言が、ますますはっきりと聞こえてくる。しかし、彼女の目には血のように赤い世界しか映らず、もはやこの世の景色を認識することができなかった。

清穆(せいぼく)、柏玄(はくげん)、父神……この世で彼女にとって最も大切な三人が、いなくなってしまった。

この世に、彼女には何が残っているというのだろうか?

たとえ彼女が死んだとしても、どうだというのだろうか。たとえあの人が目覚めて、彼女がいなくなったとしても、どうだというのだろうか。

この世界にはもはや後池という人間は必要ないのだ。

彼女は下へと落ちていき、長い髪が空中で舞い上がり、まるで果てしない地獄へと落ちていくようだった。

三界の彼方、九州の岸辺で、白玦はふと振り返った。生生世世、私はただ後池でありたい。

ただ、あなたを憎み続けたい、この人生が終わるまで。

混沌とした世界はゆっくりと消え去り、落ちていく黒い影だけが、まるで永遠に変わらない絵のように、そこに留まっていた。

静寂の中、天空の上空。

擎天柱の上で、四分の一の黒い霧がゆっくりと散っていき、「上古(じょうこ)」という名が刻まれていた。銀色の光がゆっくりと走り抜け、そして再び静寂と闇闇に戻った。

巨大な擎天の門が突然空中に現れ、古代の文字が空中に浮かび上がった。三界のすべての霊獣は、まるで召喚されたかのように、その古代の門へと集まっていった。

ぼやけていた古代文字が徐々に鮮明になり、八つの文字だけが浮かび上がった。

遠古神祗、上古為尊。

一瞬のうちに、広大で茫漠とした気が突然三界に響き渡り、轟音と共に、四つの霊光が天から降り注ぎ、世界を照らした。

後古暦六万三千四百二十一年、六月五日。

上古界が開き、真神上古が再びこの世に現れた。

(上部完)