『上古』 第47話:「自罰(下)」

少女、墨黒の瞳に自らの姿が映り、そこには強い意誌と頑固さが見て取れた。清穆(せいぼく)は「原則」という言葉を耳にした瞬間、心に不快感が湧き上がった。まるで、後池(こうち)にこの言葉を口にして欲しくないかのように。

「後池(こうち)、お前は……」

清穆(せいぼく)が言葉を言い終わらないうちに、冷たい声が天に響き渡った。怒りを隠そうともしない声だった。

「後池(こうち)、清穆(せいぼく)が天宮に侵入し聚霊珠を奪ったのはお前のためだったのか。朕は彼が何故そのような大胆な行動に出たのかと不思議に思っていたのだ!」天帝(てんてい)の逞しい姿が空中に現れ、その目には失望の色が浮かんでいた。「お前は上神であり、三界に幸福をもたらすべき存在であるはずだ。今、私利私欲のために三界を混乱に陥れるとはどういうことだ?」

少し間を置いて、天帝(てんてい)は語気を和らげ、言った。「三宝を返還すれば、朕はおめえを重く罰することはない。」

天后(てんこう)、景陽(けいよう)、景澗(けいかん)は黙って天帝(てんてい)の後ろに現れた。三人は沈黙を保ち、珍しく何も言わなかった。

天帝(てんてい)の出現と共に、その後ろには黒い仙将たちが潮の如く押し寄せ、銀色の鎧が冷たい光を放ち、擎天柱の下に殺伐とした空気がゆっくりと広がっていった。

この光景を見て、妖皇は内心舌打ちした。今回は天帝(てんてい)が自ら出陣しただけでなく、仙界最強の天将たちまで引き連れて威嚇している。本当に怒っているようだ……それも当然だ。聚霊珠と玄天殿は彼が三界を統治する象徴であり、今や一つは盗まれ、もう一つは灰燼に帰した。彼がじっとしていられるはずがない!

「天帝(てんてい)、聚霊珠、鎮魂塔、聚妖幡、百年お借りしたい。」後池(こうち)は淡々とそう言い、前に進み出た。数万の大軍の殺気に圧されても怯むことなく、墨のように深い色の長袍が風に舞い、見る者の心を揺さぶるような静けさを漂わせていた。

「後池(こうち)、わがままを言うな。三界を混乱させた結果は、たとえ古君(こくん)がお前を守ったとしても、お前は無傷では済まないぞ。」後池(こうち)の強い意誌を見て、天帝(てんてい)の表情は冷たくなり、怒鳴った。

「父神に私の責任を負わせるつもりはありません。当然、自分がしたことの責任は自分で取ります。」後池(こうち)は突然笑みを浮かべ、何もない空に向かって眉を上げた。「おじいちゃん、そうでしょ?」

後池(こうち)の声は澄んでいて、空を見上げる瞳には奔放さと落ち著きがあった。皆は驚き、後池(こうち)が見ている方向を見上げた。

擎天柱のそばの空中で、灰色の長袍をまとった老人が姿を現し、深刻な面持ちで下界を見つめていた。

「おじいちゃん、あなたは言ったわよね。この天地の間で、私は天を敬わず、鬼神を信じず、上神の責務を果たさず、ただわがままに生き、自由に過ごせばいいと。そうでしょ?」後池(こうち)はまだにこやかに笑い、幼い頃、古君(こくん)が宮殿を離れる時に戸口でしゃがんで自分に言った言葉を思い出し、瞳に淡い追憶と物思いが浮かんだ。

これはどういう言葉なのか?どんなに子供を可愛がる父親でも、こんな無法なことは言えないはずだ。しかし目の前にいるこの人は、他でもない古君(こくん)上神、三界に君臨する最強の存在なのだ。

皆は言葉を失い、しばらく我に返ることができず、ただ呆然とこの父娘を見ていた。

「そうだ、後池(こうち)、どんなことがあっても、父神がお前の責任を取る。」古君(こくん)は空中に一歩踏み出し、ちょうど天帝(てんてい)と妖皇の間に立ち、後池(こうち)を守るという強い意誌を明確に示した。

天帝(てんてい)と妖皇は顔色を変え、眉をひそめて互いに顔を見合わせ、珍しくもある種の默契が生まれた。まさに口を開こうとしたその時、少しばかり頑固な声が二人を遮った。

後池は一歩前に出て、古君(こくん)上神の保護圏から抜け出し、頭を下げて眉を伏せ、かすかな声で言った。「おじいちゃん、それは無理よ……」

古君(こくん)は驚き、わずかに頭を下げた後池を見て、老いた顔に戸惑いの色が浮かんだ。

「あなたが崑崙山で私のために上神の位を勝ち取ってくれた時から、それはもう無理なの。私は上神の尊位を授かり、世間の尊敬を受けている以上、上神の責務を果たさないわけにはいかない。」

軽くため息をつき、後池は突然顔を上げ、瞳には強い光が宿っていた。「それに、私は清池宮で育ったの。清池宮を三界の笑いものにするわけにはいかない。おじいちゃん、約束して。私がどんな決断を下しても、あなたは幹渉しないで。」

一瞬のうちに、黒い長袍をまとった少女の全身から、世俗を超越した凛とした気概が溢れ出し、天地に立ち尽くすその姿は、まるで何物にも破壊できないかのようだった。

このような後池を見て、古君(こくん)上神は遠い昔の記憶に浸っているかのように見えた。しばらくして、静寂の中、彼はうなずき、静かに言った。「わかった、後池、約束しよう。」

古君(こくん)上神が言葉を言い終えると、後池は空中に舞い上がり、擎天柱のそばに立ち、古君(こくん)上神の正面に立った。ちょうど天帝(てんてい)、妖皇と同じ高さになった。

清風の中、腰まで届く黒い髪が風に舞い、後池は二人を見て、真剣に言った。「天帝(てんてい)、妖皇、あなたたちに説明すると約束しました。」

後池は少し目線を上げ、擎天柱に刻まれた上神の名が記されている場所を見つめ、表情を変えなかった。この万年、どんなに努力しても、この場所に自分の名前が刻まれることはなかった。彼女は天地の法によって真に認められたことは一度もなかったのだ。上神の称号はあっても、その称号にふさわしい力を持っていなかった……父神は彼女に天地間の最高の地位を与えようとしたが、彼女がもしかしたら……それを受け止めきれないかもしれないとは、考えもしなかったのだ!

「上神後池、聚霊珠、鎮魂塔、聚妖幡を盗み、三界を混乱に陥れた罪は許しがたい。今、自ら上神の位を剝奪し、衆怒を鎮め、三界の法の重さを示す!」

清穆(せいぼく)、鳳染(ほうせん)はこの言葉を聞いて顔色を変えた。後池は一人で全ての責任を負おうとしているのだ!二人が止めようとした瞬間、強力な霊力に阻まれた。古君(こくん)は二人に向かって軽く首を振り、濁った瞳の奥底には何の感情も読み取れなかった。

天帝(てんてい)と妖皇は共に一瞬言葉を失った。上神という地位はどれほど重要なものか、後池が自ら放棄するとは思いもよらなかったのだ。

かつて崑崙山では、古君(こくん)上神の一言ではあったものの、後池の上神としての地位は諸天神仏の賛同を得ていた。今、彼女がこれほどあっさりとその地位を明け渡そうとしているとは信じられない。

「上君後池は、天帝と妖皇界主の威光に挑み、両界を不安定に陥れた罪により天条に違仮した。三界の法規の尊厳を守るため、自ら上君の地位を削ることを望みます!」

後池のこの言葉に、皆が無理に保っていた平静は跡形もなく崩れた。上君の地位まで削ってしまうとは……。

古君(こくん)上神は背中に回した手を強く握りしめ、濁っていた瞳が徐々に澄んでいった。

後池よ、もし三界を統べる力を持っていたなら、お前は三界の衆生に頭を下げる必要などなかったのだ。

誰もがこれで終わったと思ったその時、空中の黒い衣を纏った少女は雲海の下を見下ろし、断固として冷淡な表情を浮かべた。墨のように黒い瞳は、まるで渦巻く深淵のように深く濃かった。

「下君後池は、私利私欲のために三宝を精錬し、三界に受け容れられない罪を犯した。三界の法規の尊厳を守るため、自ら百年、無名之世への追放を望みます!」

力強く凛とした言葉が天に響き渡った。淡々と冷たく、まるでどんな罰を与えられても構わないと言わんばかりだった。

古君、鳳染(ほうせん)、そして清穆(せいぼく)は何かに気づいたように表情を少し変えたが、声を出して止めようとはしなかった。

と言うより、もはや止める時間など残されていなかったのだ……。彼らを完全にこの事件から切り離すため、後池は最も断固とした、そして最も効果的な方法を選んだ。

死のような静寂。天帝と天后(てんこう)でさえも、わずかに呆然としていた。無名之世は虚無の空間に存在し、上神でさえ容易に足を踏み入れることはできない。時空の乱流に巻き込まれ、二度と戻ってこられなくなることを恐れているからだ。自ら無名之世へ追放されれば、もし戻ってこられなければ、本当に二度と戻ってこられないだろう。

待てよ、なぜ百年なのだ?天帝は心に微かな不安を感じ、良くない兆候だと察した。その時、すでに一筋の銀色の光が天を切り裂き、頭を垂れて立っている後池を包み込んだ。

後池の腕輪の石鎖から放出された銀色の霊力は、混沌とした闇い仙妖の境界を照らし出し、人間界から水晶の氷棺が現れ、九重の雲海を突き破り、擎天柱の前に著地した。

棺の中にいる男は穏やかな顔つきで、端正な顔立ちをしていた。両目は固く閉じられており、まるで既にこの世を去ったかのようだった。

鎮魂塔は数丈の高さになり、青緑色の炎を燃え上がらせ、氷棺を包み込んだ。聚霊珠と聚妖幡は後池の手のひらから離れ、塔の中へと落ちた。赤と白の光が交錯し、精錬された力が天を切り裂き、雲霄へと突き抜けた。

その銀色の霊光の輝きの中、天帝は後池の周囲数メートルに近づくことができず、ただ彼女が三宝をあの氷棺の中の男と共に精錬するのを見守ることしかできなかった。

巨大な防御の銀色の光は後池の霊力を使い果たし、彼女は顔面蒼白になった。天帝と妖皇を見ることなく、古君の方を向き、頭を下げて言った。「父上、後池は不孝にも父上のご厚意に背き、自ら百年、無名之世への追放を望みます。どうかお体をお大事に。」かつて古君上神は三界の仮対を押し切って彼女のために上神の地位を勝ち取ってくれたのに、今、彼女はそれをあっさりと放棄してしまった……。

「もういい。」古君は手を振り、眼底の痛みを隠して高らかに笑った。「後池、父上は待っているぞ。」

後池は頷き、鳳染(ほうせん)の方を向いて言った。「鳳染(ほうせん)、父上と清池宮を頼んだわ。」

鳳染(ほうせん)は真剣に頷き、心の不安を抑え、明るい声で言った。「安心しろ、じいさんを白くて丸々太らせてやる!あいつに……お前と一緒にいる方が良いだろう。」鳳染(ほうせん)は手首を動かすと、一つの卵を投げた。

後池はそれを受け取り、少し驚いた後、すぐに理解し、頷いた。

天后(てんこう)がその卵を見た時、眼底に一瞬の疑いと驚きがよぎったことに誰も気づかなかった……。

濃い青色の長衣を著た青年も同様に顔面蒼白だったが、両目はひときわ輝いていた。彼は擎天柱の下に立ち、後池が振り向くと優しく微笑み、穏やかな表情で、まるで人が変わったようだった。

「清穆(せいぼく)……」

「ここで待っている。百年は長くはない。」

「百年後には?」

「三界を掌握する力を持つようになったら、迎えに行く。」

「それから?」

黒髪の少女はにこやかに笑い、静かに青年の言葉を聞き、唇の端を少し上げ、まるでこの世にこれ以上の困難など何もないかのようだった。

「結婚しよう。」

青年は少し顔を上げ、体に流れる金色の霊力はさらに濃くなり、一瞬にして天帝と古君上神の神秘的で悠遠な感覚を凌駕するかのように見えた。

「ええ。」

言葉が終わると、後池はそれ以上何も言わず、手を一振り、銀色の霊力を擎天柱の後ろの虚無の空間へと放った。人ひとりが通れるほどの黒い穴が皆の目の前に現れ、闇く冷たく、まるで全てを飲み込むかのようだった。

後池は鎮魂塔を握りしめ、黒い穴に向かって飛び去った。断固として、そして毅然とした様子だった。

雄大な擎天柱、冷徹な仙界の軍勢、三界の頂点に立つ上神たち、まるでこの瞬間、全てが天地に浮かぶ黒い衣を纏った少女の背景と化したかのようだった。

轟音と共に、黒い穴はその姿を飲み込み、太陽と月と星々が再び空に輝き始めた。

擎天柱の下、三界は静まり返った。

この一件以来、上神後池は自ら神位を削り、天涯へ追放され、二度と戻ることはなかった。