『上古』 第23話:「継承」

「景昭(けいしょう)、炙陽(せきよう)槍を取ってこい。今や神兵に主はいない。お前が血を滴らせれば、神槍は自ら主を認めるはずだ。」

景澗(けいかん)の手の中で白い光が一瞬ひらめき、景昭(けいしょう)に向かって叫んだ。玄白の長剣はまっすぐ麒麟へと向かったが、空中で赤い長鞭に阻まれた。

燃えるように赤い長髪が風もないのにたなびき、突然空中に現れた鳳染(ほうせん)は眉をひそめた。「景澗(けいかん)、貴方の相手は私よ。」

景澗(けいかん)は一瞬たじろぎ、どこかで見覚えのある瞳を見てため息をついた。長剣の光はたちまち増し、鳳染(ほうせん)に立ち向かった。

膨大な仙力が瞬時に爆発するのを感じ、鳳染(ほうせん)の顔色は変わり、表情にも真剣さが増した。景澗(けいかん)の霊力は、彼女に少しも劣らず、それどころか、景澗(けいかん)は全力を出していないような感覚さえあった。鳳染(ほうせん)は複雑な面持ちで、目の前の穏やかな表情の青年を見つめ、その瞳に一瞬の光が走った。

鳳染(ほうせん)が現れるのと同時に、景昭(けいしょう)は手にしていた羽化傘を一丈ほどの大きさに変化させ、清穆(せいぼく)の上空に投げた。濃厚な仙力が清穆(せいぼく)と後池(こうち)の二人を完全に拘束した。そして景昭(けいしょう)自身は閃光と化し、空中の炙陽(せきよう)槍へと向かった……景陽(けいよう)と激闘を繰り広げていた麒麟はこれを見て怒号を上げ、空中で翻弄する火炎はさらに激しさを増したが、景陽(けいよう)による製御を打ち破ることはできなかった。

炙陽(せきよう)槍に一メートルほどまで近づいたところで、炙陽(せきよう)槍の周囲が突然金色の光暈に包まれ、景昭(けいしょう)をしっかりと阻んだ。

清穆(せいぼく)はその突然現れた金色の光暈を見て、表情を硬くし、後池(こうち)を抱いていた腕が強張った。この金色の光は、彼に根源的な何かを感じさせた。

景昭(けいしょう)は顔色を変え、周囲の混戦の様子を一瞥し、視線を清穆(せいぼく)の腕の中の雪のような白さに落とした。唇を噛みしめ、両手で複雑な印を結んだ。

響き渡る龍の咆哮と鳳凰の鳴き声が突然、瞭望山脈に響き渡った。人々は驚き、慌てて空を見上げた。金色の龍と彩鳳の幻影が炙陽(せきよう)槍の外に現れ、金色の光暈に向かって行った。

天帝(てんてい)と天后(てんこう)の霊力の幻影!徐々に砕け散っていく金色の光暈を見て、その巨大な威圧を感じ、仙たちは皆、驚きの表情を浮かべた。景昭(けいしょう)公主の身に天帝(てんてい)と天后(てんこう)の霊力の加護があるとは、誰が想像できただろうか。これほどの行動も無理はない。

それと同時に、天界九重天宮から、かすかな諦めを含んだため息が聞こえた。そしてさらに奥深い仙境では、瞑想していた白い衣の女性が突然目を開け、広大な霊力が三界へと探りを入れていった。

「おかしい。昭児に生死の危機はないはずなのに、なぜ私が用意した護身の印を使ったのだろう?三界に一体何が起こっているの?」

白i真神が残した陣法のために、探る力は瞭望山脈を一瞬で通り過ぎ、留まることはなかった。しかし、三界のうち瞭望山脈以外の場所では、このとてつもない霊力の威圧と恐怖を感じた。

「どうやら、私も出るべき時が来たようね……」この優しいため息とともに、白い衣の女性はゆっくりと目を閉じた。

「カチッ」という鋭い音とともに、金色の光暈は打ち破られた。景昭(けいしょう)は炙陽(せきよう)槍の前に近づき、指先を切り裂き、血を霊力とともに炙陽(せきよう)槍へと向かわせた……麒麟神獣はこの光景を見て、眼底に一抹の悲しみを浮かべた。もし炙陽(せきよう)槍までも失えば、白i真神が残したこの世の痕跡は本当に消えてしまう。一縷の残魂で千万年守ってきたが、最後はやはり……

空中では戦闘の音が絶えず、周囲で濃厚な仙力が爆発していたが、清穆(せいぼく)は今はそれどころではなかった。彼は徐々に砕け散っていく金色の光と、その中で悲鳴を上げているかのような炙陽(せきよう)槍を見て、突然、果てしない悲涼感と寂寥感が心に湧き上がってくるのを感じた。

茫漠として孤独な上古(じょうこ)の神槍、静かに待ち続ける麒麟神獣、悠久の歴史を持つ瞭望山脈……そして……天に立ち、炙陽(せきよう)槍を山底に鎮めた玄白の姿……

「紅日(こうじつ)、今日からお前が私の代わりにこの瞭望山を守り、彼女が戻るのを待つのだ。」

まるで現実のような光景が幻のように脳裏に浮かび、混乱し、重苦しかった……それは耐え難い寂寥感と絶望だった。

極限まで低い嘆きは、まるで蒼穹を切り裂くように悠久に響き渡った。清穆(せいぼく)はゆっくりと閉じた両の眼を突然見開き、金色の印がまるで実体を持っているかのように眼底に現れた。まばゆい金色の光が彼の体から広がり、先ほど炙陽(せきよう)槍の周りに満ちていたものよりもさらに眩しく威厳に満ちており、二人の頭上に広がっていた羽化傘もこの霊力によって吹き飛ばされた。

空中で激闘を繰り広げていた麒麟は突然動きを止めた。この気配は……まさか……その眼底に信じられないほどの驚きと不安がよぎり、攻撃を止めて清穆(せいぼく)を見た。

それと同時に、景昭(けいしょう)の血で染まりそうになっていた炙陽(せきよう)槍も、とてつもない気迫を爆発させた。清らかな長槍が空を切り裂く音は、喜びに満ちた鳴き声に変わり、ずっと動かなかった炙陽槍は、まばゆい塵となって景昭(けいしょう)の束縛を打ち破り、まっすぐ清穆(せいぼく)へと向かった。

この不思議な光景を見て、戦っていた人々は皆動きを止め、鳳染(ほうせん)と景澗(けいかん)でさえも驚き、清穆(せいぼく)の方向を見た。

多くの視線の中、景昭(けいしょう)の傍から素早く逃げ出した炙陽槍は清穆(せいぼく)の周りを数回旋回し、その後急速に小さくなり、まっすぐ清穆(せいぼく)の前に止まった。そして、その全身を包んでいた灼熱の気配もゆっくりと消えていった。

まるで意思を持っているかのように、人々は炙陽槍が発する魂の震えと喜びを感じることができた。

神兵が自ら主人を選ぶとは、まさか本当にあるとは!この状況を見れば、明らかなように、炙陽槍は清穆(せいぼく)を次の主人に選んだのだ。

人々は、空中で面色陰鬱な景陽(けいよう)と当惑する景昭(けいしょう)に視線を送り、ため息をついた。これらの方々は、あれほど苦労して争ったというのに、結局は何も得られずに終わったのだ。

清穆は複雑な表情で目の前の炙陽槍を見つめ、その喜びと切望を感じながら、しばらく考え込んだ後、手を伸ばして炙陽槍を握った。すると突然、炙陽槍の墨のような色は少しずつ剝がれ落ち、燃えるように赤い槍身が人々の前に現れた。頂点からは純粋な赤いエネルギーが放出され、膨大な霊力が清穆を包み込み、山脈全体が震え始めた。白真神が張った護山の結界さえも徐々に壊れ始めた。

多くの仙君や妖君たちは、その赤い光に思わずひれ伏して跪拝した。人々は内心恐れおののいた。ただの主従の儀式に過ぎないというのに、これほど恐ろしい効果をもたらすとは。

主人を選んだ後の炙陽槍は、明らかに先ほどより数倍も強くなっていた。推測するまでもなく、炙陽槍と清穆の霊力が完全に融合すれば、清穆は本当に三人の上神を除けば並ぶ者のない存在になるだろうと誰もが思った。

驚きと感嘆に満ちた人々の中で、麒麟だけが赤い光に包まれた清穆を見つめ、抑えきれない喜びと懐かしさを目に浮かべていた。大きな瞳は徐々に潤み、清穆の腕の中で炙陽槍の熱にも全く影響されていない少女を見つめ、何かを悟ったようだった。

ただ残念なことに…もう何もしてあげられない。これが私の限界だ。おかえりなさい、私の…

一抹の寂しさが表情をよぎり、麒麟の最後の清明さがゆっくりと消えていった。細く弱い残魂が麒麟の頭から抜け出し、ゆっくりと清穆に向かって漂い、最後は炙陽槍に溶け込んだ。そして、麒麟の巨大な体は轟音とともに消散し、灼熱の火炎は瞬く間に瞭望山の頂から消え去った。

「紅日(こうじつ)…」低い嘆息がゆっくりと響き、赤い光の中の人影がゆっくりと目を開けた。金色の瞳には、自分でも気づかないほどの悲しみと申し訳なさが宿っていた。

麒麟の消滅とともに、清穆を包んでいた赤い光も徐々に消散し、後池(こうち)を抱いた彼が人々の前に現れた。炙陽槍は彼の手に握られ、静かで落ち著いた様子だった。彼はうつむいて手にした炙陽槍を見つめ、表情を読み取ることができない。

この誰もが予想しなかった事態に、人々は顔を見合わせた。神兵はすでに自ら主人を選んでおり、彼らがここに留まっても意味がない。しかし、護山の結界は開かれており、行きたいからといって簡単には行けない。

空中で、景昭(けいしょう)は複雑な表情で炙陽槍を握る清穆を見つめ、表情を曇らせ、ため息をついて景澗(けいかん)の方へ飛んで行った。景陽(けいよう)だけが陰鬱な表情で清穆を見つめ、冷たく哼んだが、結局手出しはしなかった。

「清穆上君、おめでとうございます。炙陽槍はすでに主人を選んだので、我々はこれ以上無理強いはしません。これで失礼します。」景澗(けいかん)は清穆に拱手し、手にした長剣を収めた。誰もが知っているように、主人を認めた神兵は、主人が死ぬ以外、次の主人に使われることはない。彼らが清穆を殺さない限り、たとえ炙陽槍を奪っても全く役に立たないのだ。山脈の周囲にまだ張られている結界については、三人で力を合わせれば、破るのは難しいことではないだろう。

空中の青年は依然として沈黙し、うつむいていた。景澗(けいかん)は少し戸惑い、清穆の腕の中の後池(こうち)に目を向けると、彼女もまた不思議そうに清穆を見上げていた。少し不安になった心を落ち著かせ、清穆の後ろに戻った鳳染(ほうせん)に視線を送り、景昭(けいしょう)を連れて行こうとした。

「私の修行の地を侵し、護山の神獣を傷つけたにもかかわらず、本当にそんなに簡単にここから去れると思っているのか?」

無限の威圧感がうつむいている青年から湧き出し、莫大な神力が周囲の護山の結界を完全に打ち砕いた。広大な気配は三界の隅々まで広がり、九重天宮や妖界三重天でもはっきりと感じることができた。

服従、絶対的な服従、抑えきれない威圧感…上位者からの怒りがすべての人々の心神を席巻した。

この信じられない言葉を聞いて、景澗(けいかん)は顔を上げて清穆を見ると、目に深い不条理がよぎり、景昭(けいしょう)でさえも足を止め、体が硬直した。

修行の地、護山の神獣…三界の中でこの言葉を言う資格を持つ者は、遠い昔にこの世を去り、塵と化している。

後池(こうち)も同様に信じられないという表情で清穆を見つめ、彼の手を握る小さな手が急に縮こまった。どういうことなのだろう、彼女は清穆から、知っているようでいて不安になるような気配を感じた…後池(こうち)の漆黒の瞳は、この時、墨のように深く沈み、いくらか威厳と悠久さを帯びていた。

広い衣の下、誰にも見えない場所で、二人の手首に繋がれた石の鎖がかすかな光を放った。

息が詰まるような静寂の中、空中に浮かぶ青年はゆっくりと顔を上げた。瞳の中の金色の印はまるで実体があるかのように悠久で、荒涼とした上古(じょうこ)の気配がゆっくりと広がっていった。彼は遠くの景昭(けいしょう)たちを見上げ、冷たく威厳のある表情をしていた。

「紅日(こうじつ)をこの世から消滅させるなど…貴様らは…誅殺に値する!」

冷酷な声が瞭望山脈に響き渡り、景澗(けいかん)たちは呆然と空中に浮かぶ清穆を見つめ、押し寄せるような殺伐の意を感じ、遅れてきた恐怖が徐々に三人の心に広がっていった。