いう冷徹な声が響き渡ると共に、威厳に満ちた漆黒の姿が重紫殿からゆっくりと現れた。現れたのは、背筋が伸び、威風堂々とした立ち居振る舞い、意誌の強さが見て取れる顔立ちの、まさに帝王の風格を漂わせる人物だった。その登場に、広場全体が静まり返り、高空に浮かんでいた鳳染(ほうせん)さえもわずかに目を細め、背中に回した手が無意識に握り締められた。
妖皇・森簡(しんかん)。万年にも及ぶ修練を積み重ねた、まさに頂点に立つ強者。鳳染(ほうせん)でさえ、その怒りを露わにしない威圧感に押され、平静を装うのがやっとだった。森簡(しんかん)からは、漠然とした恐怖すら感じられた。それは――かつて古君(こくん)上神に相対した時に感じたものと価ていた。しかし、森簡(しんかん)が古君(こくん)上神と同等の域に達しているとは到底思えなかった。
重紫殿からゆっくりと歩み出る妖皇の姿に、人々は恭しい態度で数歩後ずさりし、頭を下げた。多くの妖君たちに囲まれていたため、群衆の中に微動だにしない黒い影があることには誰も気づかなかった。
三界において、高貴さという点では、生き残った三人の上古(じょうこ)上神と、清池宮で暮らす病弱で高貴な小神君に並ぶ者はいない。しかし、帝王としての威厳という点では、天帝(てんてい)を除けば、三界のどこを探しても、この森簡(しんかん)に勝る者はいないだろう。
妖皇は千年もの間、世俗を離れ、修練に励んでいた。まさか、過去の因縁によって再び人前に姿を現すことになるとは、誰も予想していなかった。人々は静かに宙に浮かぶ鳳染(ほうせん)上君に視線を送り、ひそかにため息をついた。かつて、三殿下が鳳染(ほうせん)の手によって命を落とした事件があった。普段は清池宮に閉じこもっている鳳染(ほうせん)上君だが、今回、あえて単身で第三重天に侵入し、二殿下に重傷を負わせたのだ。無事にここから出ていくことは難しいだろう。
妖皇の妖力は既に妖君の頂点を遥かに超え、計り知れない。三人の上神を除けば、三界に敵う者はいない。
「遠路はるばるようこそ、とは口が裂けても言えませんね。まさか、堂々たる妖皇一族に、このような卑劣な者がいるとは思いませんでした。」鳳染(ほうせん)は背中の鳳凰の印をしまい、先ほどの戦闘の跡地にゆっくりと降り立った。妖皇に軽く会釈した後、視線を森羽(しんう)の腕に抱かれた小狐へと向け、鳳凰のような目を弔り上げ、冷淡で軽蔑に満ちた表情を見せた。
人々は驚愕した。鳳染(ほうせん)の言葉は確かに間違ってはいない。数千年前、森羽(しんう)はこの小狐・青漓を娶ると約束していた。つまり、彼女は妖皇一族の一員と言える。しかし、このような状況で鳳染(ほうせん)が妖皇を挑発するとは、誰も予想していなかった。皆、彼女を見つめる目に驚きを隠せなかった。
この鳳染(ほうせん)上君は、まさに狷狂という名に恥じない。
妖皇は目を伏せ、森羽(しんう)の腕の中で震える青漓に視線を向け、わずかに眉をひそめた。「青漓の裏切りは確かに非がある。禁殿に一月閉じ込め、懲戒とする。」 冷淡な声が響いた。
森羽(しんう)は腕の中の小狐が激しく震えるのを感じ、困惑を隠しながら急いで言った。「父皇、青漓は…」。しかし、妖皇の冷ややかな視線に言葉を詰まらせた。これ以上言い続ければ、青漓への罰はさらに重くなることを悟ったのだ。
しかし、森羽(しんう)は気づかなかった。彼が青漓のために弁護した後、常沁(じょうしん)が腿に置いた両手を静かに握りしめ、そっと目を閉じたことを。そして再び目を開けた時、彼女の目に残っていた最後の葛藤は消え去っていた。
ほんのわずかな時間だったが、鳳染(ほうせん)の後ろに静かに立っていた常沁(じょうしん)は、音もなく、静かに変化していた。彼女の瞳に、かすかな光が流れ、全身に淡い知的な雰囲気が漂い始めた。まるで上質な温玉のように、静かで美しい。
「おやおや、妖皇陛下は本当に公正明大で、容赦ない処罰ですね。」鳳染(ほうせん)は口を尖らせ、手首を軽く回し、妖皇の威圧によって張り詰めていた体を緩めた。
「鳳染(ほうせん)、多くを語る必要はない。森邢が貴様の手にかかったのは、彼の力不足だ。私はかつて古君(こくん)上神に仙界で貴様の命を奪わないと約束した。その約束を破るつもりはない。」妖皇は鳳染を静かに見つめ、目に微かな揺らぎが走った。
我が子はまだわずか万年しか生きていない。そう思うと、冷酷な殺気が妖皇の体からゆっくりと放出され、徐々に広がっていった。
鳳染は眉をひそめ、何も言わず、両拳に霊力を込めた。妖皇が簡単に自分を解放するとは思っていなかった。妖皇から放出される殺気は、最初から彼女から離れることはなかったのだ。
「しかし、貴様がこれほどまでに傲慢な態度を取り、我が妖界に足を踏み入れた以上、このまま無事に帰らせるわけにはいかない。一界の主としての面目が立たぬ。」
妖皇は片手を背中に回し、もう片方の手をゆっくりと曲げ、高く掲げた。ほんのわずかの時間で、濃い紫色の妖力が彼の手に集まり、巨大な光輪を形成した。微かな雷光がその表面を覆い、閃光を放ちながら、まばゆいばかりの輝きを放っていた。
妖皇のこの動作は、鳳染が霊力を手に集めるのと同じだった。しかし、その力は鳳染よりもはるかに強力で、その一挙手一投足が人々を圧倒した。微かな雷鳴は、驚嘆の声と共に徐々に広場全体を包み込み、計り知れない雷の姿を形成していった。
鳳染は目を細め、妖皇の手にどんどん大きくなっていく紫色の光輪を見つめ、真剣な表情を見せた。血のように赤い霊力が薄い壁となって彼女の前に立ちはだかった――先ほどの小狐の奇襲は、彼女にとって全くの無傷というわけではなかった。そのため、元々自分よりも強い妖皇に立ち向かうのはさらに不利だった。
「陛下!」
澄んだ声が、人々が息を呑む中で突然響き渡った。常沁(じょうしん)がゆっくりと前に進み出て、複雑な表情で鳳染を一瞥した後、妖皇に拱手した。「陛下、鳳染上君は既に二殿下と激戦を繰り広げ、さらに青漓の奇襲を受けました。この状況で彼女に手を出すことは、陛下の威厳を損ない、妖界は仙界の仙君たちに嘲笑されるでしょう。」
彼女は千年前に既に妖界の三軍統帥ではなくなっていたので、妖皇に跪拝する必要はなかった。
しかし、彼女の言葉の端々から、人々は常沁(じょうしん)妖君の卓越した風格を感じ取った。爽やかな立ち居振る舞いの下には、仙君・鳳染とは全く異なる魅力があった。皆、一瞬呆然とした。このような常沁(じょうしん)妖君の姿は、本当に長い間見ていなかった。そして、彼女から発せられる妖力は、以前よりもさらに強く、まるで何かの壁を突破したかのようだった。
近くに立っていた森羽(しんう)は、突然現れた常沁(じょうしん)の姿に驚き、さらに彼女が感情を込めずに「二殿下」と言ったのを聞いて、顔面蒼白になった。彼の目には、信じられない驚きと苦痛が浮かんでいた。
妖皇の手の中で紫色の光暈が微かに揺らめいた。彼は遠くの常沁(じょうしん)に視線を向け、眉間の緊張が珍しく緩み、皇者の威厳にも幾分柔和さが加わった。「常沁(じょうしん)よ、この件には関わるな。今回私が閉関を終えた後、お前は無事に第三重天を去ることができる。」
常沁(じょうしん)は首を横に振り、背筋を伸ばした。「陛下、鳳染上君は妖界の敵ではありますが、私にとっては大きな恩人です。常沁(じょうしん)はこのような恩知らずではございません。どうか陛下、お慈悲を。」
常沁(じょうしん)は軽く頭を下げ、懇願の姿勢を見せた。
妖皇は眉をひそめ、常沁(じょうしん)をしばらく見つめていたが、彼女の頑なな態度にため息をついた。「かつて私はお前に約束した。いつかお前に願い事があれば必ず葉えると。長年お前は第三重天に留まっていたが、私はお前がいつかは口を開くと思っていた。まさかこれほどまでに頑固だとは。今、鳳染のために私の約束を使うとは、本当にそれで良いのか?」
妖皇のこの言葉に、皆は驚きを隠せない。まさか妖皇陛下がこのような約束をしていたとは、そしてなぜ常沁妖君が今まで使わず、今になって鳳染上君のために使うのか、理解に苦しんだ。
「はい、陛下。」
常沁が重々しく頷くと、鳳染の傲慢で冷淡な表情にも一瞬の変化が見られた。彼女は常沁に視線を向け、目には微かに温かみが見えた。彼女はやはり間違っていなかった。この常沁は、かつて老人が一日三食の度に褒めていただけのことはある!
「結構です、妖皇。もしあなたが私を捕らえることができるなら、この妖界でしばらく客として滞在させてもらいましょう!」鳳染は常沁に手を振り、静かに言った。目には先程よりも強い傲慢さが浮かんでいた。
妖皇の眉は険しくなり、傲慢な表情の鳳染を見つめ、冷たく鼻を鳴らした。背中に回した手を軽く振ると、皆がまだ状況を把握する間もなく、淡い紫色の光暈が常沁を包み込んだ。常沁は紫色の光にゆっくりと押し戻され、身動きが取れず、顔には焦りの色が浮かんだ。
「私は約束する。彼女の命は助けてやる。安心するが良い。」威厳のある声がゆっくりと響き渡り、妖皇の手に集まった紫色の妖光は突然、目を奪うほどの光華を放ち、見る者の心を揺さぶった。
「鳳染よ、この私の拳を受け止めろ。生死を問わず、これ以降、森邢の死について妖界はもはや追及しない!」
冷徹な声が響き渡ると同時に、澎湃たる妖力が紫色の光から溢れ出し、千鈞の重みのごとく鳳染に襲いかかった。まばゆい光華の中、雷鳴が轟き、妖界第三重天の結界もこの力に呼応するかのように、数千の雷光が同時に鳳染に降り注いだ。
この力は、九天の上の雷刑の罰にも劣らない。このような陣容、このような強大な力は、妖界では万年にも一度見られるかどうか。広場に集まった者たちは皆、この轟音と共に放たれた一撃に魂を奪われたように、身動き一つせず紫色の光華を見つめ、感嘆の声を漏らした。
轟音と共に、泰山のように押し寄せた紫色の光は、鳳染の護身障壁をいとも簡単に突破し、容赦なく鳳染に襲いかかった。皆が驚愕する中、爆発音が止み、広大な光は突然停止し、鳳染の鼻先で止まった。
死のような静寂の中、かすかな金色の光が生命の息吹のように鳳染の前に現れ、ゆっくりと流れ始めた。徐々に、その金色の光は炎のような形になり、紫色の光を少しずつ喰らい尽くし、そして皆の目の前でゆっくりと妖皇の方へと向かっていった。
「嘶嘶」という音が絶え間なく響き、広場全体が静まり返った。皆はその紫色の光をまるで戯れに喰らう金色の炎を見つめ、大きく開いた口を閉じることができない。妖皇でさえも、その金色の炎の動きにつれて徐々に表情を曇らせ、金色の光を睨みつけ、眉間に険しい皺を寄せた。
彼はこの金色の光が自分の妖力を抑え込み、実体化した妖電を打ち破ることができるかどうか、見届けようとした。
一方、九死に一生を得た鳳染は驚きの表情で眉を上げ、どこかで見覚えのある金色を見つめ、何かを思いついたように背後の者たちを見回し、目には笑みが浮かんだ。この二人、やっと到著したようだ。
この長く奇妙な息詰まるような緊張は、追いかける金色の光が妖皇と鳳染の間に到達した時にようやく途切れた。皆が抑えていた息を半分ほど吐き出したその時、突然、ゆっくりと動き、ほとんど透明だった金色の光は瞬時に濃い金色に染まり、天に向かって伸びる光の柱へと変化し、広場の上空に広がる紫色の雷電を全て消滅させた。光の柱の威力は非常に強く、第三重天を守る結界さえも、この天地を破壊する力によって揺らぎ始めた。
広場の者たちは、この力の余波に耐えきれず、わずかに震え始めた。中には妖力を動員して、金色の光に対して魂の奥底から湧き上がる服従の本能に抵抗する者もいた。
ますます強くなる金色の光の柱を見て、妖皇はついに目を伏せた。彼は素早く両腕を動かし、呪文を唱え、紫色の印を金色の光に向けて放ったが、その強力な衝撃によって全て押し返された。よく見ると、金色の光に近づいた紫色の光は、無意識に震え、まるで服従する恐怖を感じているようだった。
他の人は気づかなかったかもしれないが、妖皇はかすかに感じ取ることができた。彼は広場の方を振り返り、表情は平静を装っていたが、心の奥底の恐怖と戦慄を抑えることはできなかった。彼はすでに一界の主であり、三界の中で彼に服従させることができる者はほとんどいない。しかし、この金色の光は明らかにあの三人の上神の気配ではない。まさか、生死の門の紫色の炎を完全に消し去った謎の人物なのか?
「咔嚓」という鋭い音が響き、金色の光が第三重天の結界を破ろうとしているのを感じ、妖皇は驚き、顔色を変え、大声で叫び、手に紫色の光を集め、全力を尽くそうとした。しかし、突然、金色の光は跡形もなく消え、残ったのは破れた紫色の結界と、力の消失によって地面に倒れ伏した妖君たちだけだった。
青ざめた顔の妖皇を見て、皆は顔を見合わせ、目には抑えきれないほどの恐怖の色が浮かんでいた。天地の間には、なんと恐ろしい力が存在するのだろう……。
この一撃で、第三重天全体が荒廃した。ざわめきの中、心を落ち著かせた妖皇は突然視線を上げ、群衆の中に静かに佇む黒いローブの人物を見つめ、低い声で言った。「貴様は、一体何者だ?」
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